欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向循環型経済構築に向けイノベーション機関、企業が取り組み(英国)

2024年1月30日

英国では、2020年7月に「循環型経済パッケージ」が発表され、廃棄物の削減や資源から得られる価値の最大化といった循環型経済への移行に関する新たな枠組みが示されている。政府関係機関は、特に繊維産業や情報通信、天然資源などの分野でイノベーションの促進や業界間の連携強化に取り組んでいる。企業においても、先進的な技術やサービスの開発が進んでいる。本稿では、政府関係機関の取り組みのほか、英国の消費者の動向について複数の機関の調査結果を紹介する。また、繊維産業を中心に循環型経済に資する事業を展開する企業についても紹介する。

政府による支援は限定的、様々な機関が情報提供を中心に支援

まず、循環型経済構築に向けた各機関の支援策について概観する。

英国政府による支援は、自動車の電動化の支援や低炭素暖房網の整備といった、温室効果ガス(GHG)排出削減に資する技術の中でも、特に政府がネットゼロ目標達成に向け重点政策として位置付ける分野が対象となっており、それ以外の分野に関しては限定的となっている。

政府関係機関では、イノベーション支援機関を中心に支援が行われている。

英国研究・イノベーション機構(UKRI)は、ファッションおよび繊維産業における責任ある持続可能な取り組み導入に向けて、大学が主導する研究プログラム3つに対し、総額600万ポンド(約11億2,800万円、1ポンド=約188円)を支援。3つの研究プログラムではそれぞれ、業界でのサステナビリティに関する取り組みの現状分析、循環性や持続可能性の規範化に向けた環境科学の導入、環境インパクトに資する取り組みの信頼性や真正性向上に向けた分析・評価を行う。持続可能な資源利用を推進する非営利団体のWRAPによれば、英国で年間に廃棄される衣料品は約96万トン。人口1人当たりでは約14キログラムとなっている。一方、欧州委員会によれば、EU全体で年間に廃棄される衣料品は約500万トンで、人口1人当たりでは12キログラムとなっている。欧州の中でも、英国における衣料品廃棄物の重量が多いことがうかがえる。

また、情報通信技術(ICT)産業における、循環型経済の取り入れやデジタル技術を活用した循環型経済の推進に資する技術に関する研究に対して、総額1,200万ポンドの補助金を拠出している。

政府系研究資金助成機関のイノベートUKは、循環型経済イノベーションネットワークを構築。ウール、アルミニウム、産業排出ガスの3製品に焦点を当て、設計、ビジネスモデル、リカバリーの3原則に沿って、環境負荷の軽減に向けて企業の連携を促進している。それぞれの製品については、行動計画を発表した。例えばウールに関しては、複数の産業における石油由来の製品への依存軽減につながる原料として期待されるものの、サプライチェーン内における技術革新の程度が低いこと、最終消費者向けに循環性を示すためのトレーサビリティやライフサイクルアセスメント(LCA)のデータが不足していることなどが課題として残っているとしている。行動計画では、それらの課題解決に向けた施策を、中心となる主体や期間ごとにまとめている。

自治体レベルでは、ロンドン市長とロンドン特別区のパートナーシップという形で、廃棄物および資源管理の改善に取り組む、リ・ロンドン(ReLondon)という機関がある。企業、市民向けの情報提供のほか、2023年10月には第6回となる循環型経済に関連した年次イベントも実施している。

消費者にはリサイクルの意識、食品は廃棄物削減の方向へ

ここでは、英国の消費者の動向を複数の調査結果に基づき概観する。

不動産コンサルティングのCBREが2023年3月に発表した調査では、英国の消費者のうち、環境にやさしい製品であれば、より高価であっても購入すると回答した割合は44%となっている。市内中心部の消費者では、その割合が55%まで高まる。また、同社の2022年の調査では、「小売業が持続可能性や環境に対して与える影響の中で最も懸念されるものは何か」という質問に対して、英国の消費者においては「製品がリサイクルできないことによる影響」を選択した割合が63.9%で最大となり、世界全体の57.8%を上回った。一方で、「製造工程において使用される人工化学品」「製品製造に伴う天然資源の消耗」を回答した割合は、世界全体と比べると低かった。

英国の非営利団体エシカル・コンシューマーと金融機関コーペラティブバンクが2023年12月に発表した「エシカル市場報告書」では、英国の2022年の中古の衣料品の売り上げは13億ポンドと前年比5割増になったとしている。同報告書では、インフレによる生活費上昇を受け安価な中古品への需要が高まったほか、より多くの企業が循環的なファッション市場へ参入したことが1つの要因と分析している。

また、2023年10月に実施した消費者へのアンケート調査では、製品の購入・使用を控える理由として、「環境への悪影響」「低い動物福祉水準」が上位となった。

英国の消費者団体Which?も、2023年9月に消費者の持続可能性に対する姿勢に関する調査結果を発表。回答者のうち、78%が気候変動を懸念しており、82%が影響削減における自身の役割を認識しているとした。調査では、輸送、エネルギー・家庭用暖房、食品消費という3つに分けて調査結果が発表されている。例えば、食品消費については、事前に購入する食品を考えることで食品廃棄物を削減する取り組みを「常に」または「頻繁に」行うと回答した割合が7割、食べ残しを堆肥化もしくはリサイクルする取り組みを「常に」または「頻繁に」行うと回答した割合が52%だった。

対象となる製品は異なるものの、衣料品と食品の両分野において、消費者側のリサイクル、再利用への意向が見て取れる。一方で、家庭での取り組みに一定の障壁がある食品については、廃棄物削減に取り組む消費者が多いことから、消費できる分のみを購入する、という意識が見て取れる。中古品への需要増と同様、インフレに伴う影響とも考えられる。

代替素材の開発や廃棄削減に向けた取り組みも拡大

ここでは、消費財における循環型経済構築に資する技術を有する英国企業を紹介する。

政府機関による支援も行われている繊維分野では、代替素材の開発を行う企業が複数ある。

ポンダ(Ponda)は、「バイオパフ」と呼ばれる、インサレーション(防寒具)向けの植物由来の中綿を開発している。同社は農家や環境保全団体と連携し、バイオパフ製造に用いる植物を湿地で栽培。湿地の回復にも取り組んでいる。

アナナス・アナム(Ananas Anam)は、廃棄されたパイナップルの葉を利用し、繊維を製造する企業。本来であれば焼却される葉を利用することで、二酸化炭素(CO2)の排出削減にも資するとしている。ヒューゴ・ボスやH&Mなどのブランドに採用されているとしている。

日本の材料科学研究者、亀井潤氏が最高経営責任者(CEO)を務めるスタートアップ企業アンフィコ(Amphico)は、単一素材を用いたリサイクル可能な防水かつ通気性の高い繊維などを開発している。

オリオ(Olio)は、各家庭で不要となった食品を販売・譲渡するためのプラットフォームを提供している。また、小売店で売れ残った食品についても、一部のユーザーによる回収を可能とするサービスを提供している。

デポップ(Depop)は、衣料品再販売のオンラインマーケットプレイスを提供する。2021年に米国のマーケットプレイス企業エッツィ(Etsy)に買収された同社は、2022年末時点で約330万人の買い手と約180万人の売り手を有する。ユーザーの過半数はZ世代だ。デポップは2023年にインパクト目標を更新。循環性、ネットゼロに向けた排出削減、持続可能な運営、従業員およびマーケットプレイスの多様性・公平性・包摂性(DEI)を主要な分野として注力するとしている。

企業側の廃棄物削減の観点では、シックミー(CHICMI)がファッションブランド向けに、過剰在庫やサンプルの販売を支援するサービスを提供。登録している消費者向けには、各ブランドの販売イベントの開催やオンライン販売を実施している。現在、英国を含む欧州、米国、中国で事業を展開している。

消費者向け製品へのグリーンウォッシングを調査

消費者の間での環境配慮の意識が高まる中で、消費者保護の必要性も高まっている。英国の競争・市場庁(CMA)は、小売りファッションや回転率が高い消費財(FMCG)に関する環境配慮の主張について、消費者保護の観点から調査を行っている。2022年7月には小売りファッションについて、オンライン衣料販売大手2社と小売り大手1社についての調査を開始。FMCGについて、CMAは2023年12月、食品・家庭用品大手ユニリーバの特定の家庭用必需品に関し調査実施を発表している(2023年12月22日付ビジネス短信参照)。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課、欧州ロシアCIS課を経て2021年9月から現職。