高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来高度外国人材とともに、日本建築を世界へ
素朴屋(山梨県)の挑戦

2024年3月19日

山梨県北杜市で2006年に創業した素朴屋(従業員25人)では、4人の高度外国人材が同社の海外展開や輸出で効果的な役割を果たしている。同社は「日本建築を世界へ」を合言葉に、建築や内装、インテリア事業を手掛けている。2020年当時は従業員わずか5人だったが、ベトナム展開のビジョンを描き、高度外国人材の採用を開始。現在、日本本社でベトナム人2人(設計、総務をそれぞれ担当)、ベルギー人(設計担当)、スウェーデン人(広報・海外マーケティング担当)が勤務する。高度外国人材が同社にもたらしたインパクトについて、代表取締役社長の今井久志氏、取締役・最高財務責任者(CFO)の栄木利文氏に聞いた(インタビュー実施日:2024年2月1日)。


社内会議の様子。 左から代表取締役の今井氏、総務
担当のベトナム人社員、設計担当のベトナム人社員
(素朴屋提供)

右から代表取締役の今井氏、取締役・CFOの栄木氏(ジェトロ撮影)
質問:
素朴屋の主な事業内容は。
答え:
日本の伝統的な木造建築の設計・施工を行い、木の伐採・加工から建築、内装、インテリアまで手掛けている。ベトナム法人は2022年8月に設立し、現在は木造別荘の大規模建築事業のほか、日本から畳や木材の輸出を含む内装プロジェクトが複数動いている。いずれも、顧客はベトナム地場の富裕層だ。ベトナムでも日本建築の需要は増加傾向にあり、細部までこだわった高い品質と工期の順守が評価されている。 現地では「日本で設計し、日本の技術で施工される」という点が評価され、大きなセールスポイントになっている。
質問:
高度外国人材採用のきっかけは。
答え:
2020年にベトナム進出を目指し、ジェトロ山梨に初めて相談した。当時は従業員5人程度の小規模な会社だったが、ジェトロの新輸出大国コンソーシアムに採択され、海外展開に向けた取り組みを開始した。ベトナムでの展開に向け、ベトナムのことをよく知っている人、つまり、ベトナム人を雇用する必要があると考え、採用活動を開始。2020年から高度外国人材活躍推進伴走型支援も受けた。
2020年12月には、経済産業省の国際化促進インターンシップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに参加し、ハノイ大学日本語学部卒のベトナム人をオンラインで2カ月間受け入れた。彼女は日本語がとても上手で、優秀かつ誠実だったため、インターンシップ期間終了後は別途契約を行い、ベトナム進出に向けたマーケティングを現地で手伝ってもらった。オンラインではあったが、彼女と一緒に働いてみて、高度外国人材の仕事ぶりに手応たえを感じた。2021年4月から新たにベトナム人材2人を採用し、うち1人はベトナム現地に出張してベトナム法人の立ち上げを担った。
質問:
高度外国人材の採用ルートはどのようなものか。
答え:
大きく分けて、(1)専門学校からの紹介、(2)ジェトロのオンライン合同企業説明会や自社サイトを見て応募、(3)経済産業省の国際化促進インターンシップ経由がある。
大手求人サイトは使わず、あえて自力で採用活動を行っている。大手企業と異なり、素朴屋の場合は今年採用した人材が来年、再来年の目玉となる事業を担っていくため、どんな人材を採用するかは重要な決断となる。面接だけでは見極めが難しいため、2日間のインターンシップを実施して、互いをよく知る機会を持つようにしている。
大学院などで建築の専門教育を受けた日本人学生は一般的に、大手志向が強く、中小企業にとって採用のハードルが高い。一方で、素朴屋の事業は、日本や日本の伝統建築が好きで、高水準の教育を受けてきた外国人「オタク」人材に興味を持ってもらいやすいと考えている。例えば、設計担当のベルギー人社員は、母国で大学院まで出て建築を学んでおり、「日本の木造建築の設計スキルを日本で学びたい」というモチベーションで入社してきた。給料は日本のほうが下がってしまうが、給料以上に会社の事業に魅力を感じ、優秀な高度外国人材が入社してきてくれる傾向がある。

ベトナムオフィスとのオンライン会議の様子。ベトナム人設計担当者も参加(ジェトロ撮影)
質問:
高度外国人材の働きぶりをどう評価しているか。
答え:
まず、彼らはストレス耐性が強い。わざわざ日本に来て働こうとする意志と日本の伝統建築に強い興味を持って入社してきた人材なので、既に一定の選抜を経ており、会社の戦力としても確度の高い人材だと思う。
彼らの貪欲な姿勢は、日本人社員の意識に変化をもたらした。ある日本人社員は自ら手を挙げてベトナム法人に赴任したほか、大工の中にもベトナムでのプロジェクトに自主的に参加を希望する者が出てきた。また、英語を苦手とする従業員も、頑張って英語でコミュニケーションする雰囲気が醸成されている。

総務担当のベトナム人社員(ジェトロ撮影)
実務面でも、例えば、総務担当のベトナム人社員は、日本・ASEAN包括的経済連携協定に関連する日本語情報を読み解き、特定原産地証明書の取得や、ベトナム側での特恵税率の適用も実現させた。全て彼が1人で調べて実現させた結果、会社にとって既に百万円単位での節税効果が生まれている。ほかにも、外国人社員やインターン生の在留資格に係る各種手続きも中心となって進めている。分からないことを自分で率先して調べ、解決していく粘り強い仕事ぶりを評価している。

マレーシア人インターン生が作成したパンフレット(ジェトロ撮影)
ほかにも、2024年春に入社予定のマレーシア人インターン生の活躍も目を見張るものがある。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの展示会用パンフレット作成を任せたところ、日本人にはないクリエイティブな発想力で、「魅せる」パンフレットの設計やデザインなどを外注せずに内製することができた。
質問:
高度外国人材を受け入れる上で気を付けている点は。
答え:
経営陣が多様性に対する強いこだわりを持っている。例えば、就業規則に「国籍に関する差別は禁止する」とあえて明記している。私たちのビジネスは、日本人だけをターゲットに日本人だけでやっていても発展がないと考えている。社内全体で意識を国際化していかなければならない。そのため、意識的に言葉と文化に寛容であることを社員に求めている。例えば、外国人社員が日本語を流ちょうに話す必要は一切ない。今後、積極的に海外をターゲットにしていく中で、その土地の言語を使ってビジネスを進める際に外国人社員に頼る部分が必ず出てくるはずだ。だからこそ、外国人社員が日本の現場でミスをしても、他の日本人社員がフォローするのは当たり前だと全社員に伝えているし、国籍の垣根なく協力し合って業務を遂行することを求めている。
質問:
今後のビジネス展開をどう考えているか。
答え:
今後は、ベトナムの次なる進出先としてドバイを目指している。日本から遠い国に和風建築を持っていく。つまり、どれだけギャップを作り出せるかが市場価値になると思っている。だからこそ、山梨だけにとどまることなく、もっと外に顧客を開拓していくため、2024年1月に東京にもオフィスを設けた。東京オフィスでは、外国人社員2人が勤務中であり、彼らのさらなる活躍を期待している。
執筆者紹介
ジェトロ知的資産部高度外国人材課
斉藤 美沙季(さいとう みさき)
2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課、ジェトロ岩手を経て、2022年10月から現職。