高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来国境も逆境も飛び越える「越境人材」が活躍(世界)
顧客データプラットフォーム開発のKoeeru

2024年4月12日

Koeeru (本社:神奈川県鎌倉市)は、顧客データプラットフォームの開発を行うスタートアップ。同社の強みは国内のみならず、デジタルソリューションを使って国外の顧客の声を収集・管理し、データ化した結果の活用までを提案できる点にある。海外市場を対象とした案件も多い同社にとって不可欠な「グローバルなコミュニケーションが可能で、どんな環境にも飛び込んでいける人材」として、外国人材が活躍している。同社の人材採用の取り組みや方針、事業展開について、長野草児代表取締役社長・最高経営責任者(CEO)、マイケル・マクドウェル代表取締役・最高執行責任者(COO)に話を聞いた(取材日:2024年2月19日)。

質問:
Koeeruのミッションは。
答え:
当社は、「ひとり一人の声で、世界をよくする」を企業理念とし、国内外の顧客の声(VOC)の収集・管理・活用に特化した顧客データプラットフォームの開発を行うスタートアップとして、2021年に創業した。世の中では、企業がアンケートやSNSなどの様々なツールを活用しながらVOC収集を行い、得られたデータを経営に生かそうとする取り組みがあふれている。他方で、集めたVOCの分析や活用に課題を抱えている企業も多いのが実態だ。我々のミッションは、こうしたクライアントが抱えるVOC課題をデジタルソリューションで解決し、VOCに基づいた経営を実現することにある。
当社が提供するプラットフォームは、アンケートシステムの開発、データの可視化が可能で、クライアントのニーズに応じたカスタムメイドのシステム開発を行う。また、システムだけでなく、アンケート回答率向上やデータのマーケティング活用に対するコンサルテーション、ファンコミュニティの作成による1回で終わらないVOC収集の仕組みづくり、VOCと顧客情報との連携による精度の高いデータ分析、国内外の消費者パネル(注1)とのコネクションなどの付加価値をつけることができるのが強み。

Koeeruの長野CEO(右)、マクドウェルCOO(左)(ジェトロ撮影)
質問:
VOCの課題とは。
答え:
VOCを経営に生かせるデータに化けさせるには、越えなければならない3つの壁があると考えている。1つ目は、情報のサイロ化(注2)。よくある例としては、様々な場所・方法で収集したVOC、会員情報やSNSの口コミなどVOC以外の顧客情報などが、それぞれ別々の方法やシステムで管理されており、統合できない状態になっている。2つ目は、非効率性。特にアンケートでのVOC収集は「答えてくれる人がいてなんぼ」の世界。手書き、答えにくいアンケート構成は、答える側にとっても集める側にとっても非効率なことが多い。3つ目は、VOCデータ活用の偏り。データを効果的に活用するには、担当者のデータリテラシー(注3)の高さに左右されている実態がある。
我々はこの3つの壁を越えるソリューションを提供している。このコンセプトは社名Koeeru(コエル)の由来の1つにもなっている。課題や国境などの境界を「越える」、「顧客の『声』を『得る』」、「『声』を『エール』にする」など、社名には様々な思いを込めている。
質問:
起業の背景・きっかけは。
答え:
大学を卒業後、外資系企業での勤務を経て、2013年にスウェーデン人2人とSyno Internationalというグローバルな市場調査やマーケティングを行うスタートアップをリトアニアで起業。アジア市場へのニーズが高かったことから、2016年に日本法人としてSyno Japanを立ち上げ、代表になった。2018年にはシステム開発拠点としてベトナム・ハノイにSyno Vietnamも設立した。2019年には日本のインバウンドが盛り上がり順調に成長していた。しかし、2020年の新型コロナ発生により一転、インバウンド向け調査の需要やクライアントのマーケティング予算の激減により、売り上げが低迷した。そこで、新型コロナ禍を契機に新たな事業基盤として、マクドウェルCOOと共に立ち上げたのがKoeeruだ。Koeeruでは、日本国内の自治体などをクライアントとしたVOCデータプラットフォーム事業を展開。しばらくは、Syno JapanとKoeeruの2社体制で事業を行ってきた。2022年末に本社のSyno Intenationalが買収されることになり、Syno JapanとSyno Vietnamを本社から切り出して独立した。2023年10月に、Syno JapanとKoeeruの経営統合を行い、Koeeruとして一本化し、今に至る。
質問:
Koeeruの主なクライアントは。
答え:
自治体、消費者向けビジネスを行う企業などが主なクライアント。Syno Japan時代にグローバルマーケティングを行ってきた実績から、特に海外の消費者パネルと日本のクライアントをつなげることができる。過去の実績では、自治体に対してインバウンド観光客向けのアンケートシステムを開発した事例や、海外向けに商品展開を検討する業界団体に対して海外市場における消費者のブランド認知度調査や広告の効果測定などを行うシステム開発を行った事例などがある。いずれも、デジタルソシューションを活用して効果的に国内外の顧客の声をくみ取り、データ化した結果を事業戦略に生かすことを目的とした事例。特に、海外との接点を志向するクライアントからの依頼も多い。
質問:
現在の従業員数は。
答え:
日本とベトナム(旧Syno Vietnam)の両拠点で20人。日本拠点は、日本人3人、米国人1人、中国人(インターン)1人の5人。残りはベトナム拠点で働くベトナム人となっている。過去には、シンガポール人、ブルガリア人、フランス人の採用実績がある。また、国際協力機構(JICA)のアフリカオープンイノベーションチャレンジや経済産業省の新興国DXプロジェクトで事業を行っている関係で、ボリビア人、タンザニア人もパートナーとして一緒に働いている。

ボリビアプロジェクトに参画する学生インターン(Koeeru提供)
質問:
外国人材の採用の方針は。
答え:
当社では、グローバルにコミュニケーションができる言語スキル(英語、日本語)を持ち、恐れずに様々な境界を飛び越える力を持っている人材(当社では「越境人材」と呼称)を採用したいと考えており、国籍を意識した採用をしているわけではない。他方で、日本拠点で「越境人材」を確保しようとすると、日本人に比べて外国人の方が、「越境人材」のマインドを持っている人がいる確率が高く、結果的に外国人材の採用を積極的に行う形になっている。
質問:
活躍している外国人材は。
答え:
既に多くの外国人材が期待以上の活躍をしている。前身のSyno International時代から2022年まで勤務していたベトナム人従業員は、 新規市場の開拓で活躍し、ベトナム法人の設立のきっかけとなった。言語能力だけではなく、自らのバックグラウンドを生かした活躍だ。また、日本留学を経て日本法人で採用したフランス人従業員は、明るい人柄で、職場の雰囲気をリラックスさせることにたけており、コミュニケーションの活性化に一役買う存在だった。異なる様々な文化を持つ従業員が職場にいるだけで、全体が良い刺激を受け、社内のパフォーマンスが上がるのを実感した。また、海外市場をターゲットとする事業を行っている企業であるため、実際に外国人材が働いていることでクライアントである日本企業への説得力も増し、自社への評価も向上した。
直近では、ジェトロ横浜と市内の大学が開催した留学生との交流会を通して(2023年12月11日付ビジネス短信参照)、2024年2月に日本の大学に留学中の中国人学生をインターンとして採用。インターンを始めてまだ日が浅いが、すでに中国市場を対象としたプロジェクトを任せている。主体性があり、かつ自分のバックグラウンドを生かせる中国向け事業であることから、やる気も感じられる。今後の活躍が楽しみな1人だ。

日本とベトナム両拠点のメンバー(Koeeru提供)
質問:
外国人材と共に働くことでの課題は。
答え:
働き方の違いの相互理解は長年の課題。外国人材はワークライフバランスを徹底する傾向が強く、仕事と生活の切り分けがはっきりしている。対して、日本人の場合は、クライアントからの要望や納期によって仕事を優先するタイプが多く、この点に大きなギャップがある。しかし最近では、外国人従業員の働き方や考え方に触れて、日本人従業員も働き方を見直し、社内の働き方改革にもつながっている。例えば、社内での会議時間は30分を守る、残業の原因を可視化し、最小化する仕組みを作るなど、外国人従業員の提言による業務改革の事例がある。ただし、すべてを外国人材のカルチャーに合わせるのではなく、従業員全体の納得感を重視し、双方の意見をすり合わせていくことが重要と考えている。
質問:
外国人材の離職率は。
答え:
ベンチャー企業における平均在職年数は18カ月と言われている。国籍に関係なく、まずは18カ月未満で退職してしまう従業員を減らしたい。試用期間の6カ月間でしっかりとコミュニケーションを図り、会社に定着できるかどうかをお互いに判断するようにしている。なお、ベトナム法人の離職率は日本法人よりも低い。ベトナムではエンジニアの採用ニーズが高く、売り手市場であるものの、他のITベンチャーと比べて、受託開発だけではなく自社製品の開発を行っている点や、国際的な環境で働くことができる点が評価されていると認識している。
質問:
今後の事業展開は。
答え:
創業から3年が経ち、当社はこれまでとは異なる成長ステージに入っている。今後のさらなる成長のためには、新しい市場を切り開く必要があり、海外市場への進出はその1つだと考えている。特に、グローバルサウス諸国に強みを持ちたいと考えている。まずは、ベトナム法人を拠点に、東南アジアへの展開を目指す。中南米とアフリカについては、JICAや経済産業省の事業を通して実施している、農家が抱える課題をDXで解決する事業を継続していく方針だ。
質問:
今後求める人材は。
答え:
グローバルサウス諸国での本格展開をにらみ、東南アジア・アフリカ・中南米に精通している外国人材の必要性が増している。同時に、海外営業ができる日本人も採用したい。国籍にかかわらず、必要な人材を適材適所で配置し、事業をさらに拡大したいと考えている。

注1:
消費者調査に参加するために募集された消費者の統計的サンプル。消費者調査を行う調査会社は、自社の消費者パネルを持っていることが一般的。
注2:
サイロ化とは、組織や情報が孤立し、共有できない状態のこと。
注3:
データの内容を正しく読み取り、分析し、活用する能力。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ横浜
芥川 晴香(あくたがわ はるか)
2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部ファッション班、企画部企画課海外地域戦略班中東担当、ジェトロ・クアラルンプール事務所(実務研修生)を経て、2022年10月から現職。