FTA活用で弾性ストッキングをアジアへ、東光の取り組み(日本)

2022年1月4日

東光外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:徳島県徳島市)は、リンパ浮腫や静脈瘤(りゅう)、静脈血栓症などの予防・治療用に用いられる弾性ストッキングの開発・製造販売を行っている。同製品は、四肢の静脈血やリンパ液のうっ滞を軽減または予防するなど、静脈還流の促進を目的に使用される医療用の弾性ストッキングとして薬事法で定義づけられており、厚生労働省から医療機器として承認を受けている。アジアを中心に輸出拡大する中で、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)など貿易協定(以下、FTA)を活用してきた。FTA利用のきっかけやメリットなどについて、東光営業部の仲須正敏部長に聞いた(取材日:2021年12月9日)。

質問:
貴社の海外展開について。
答え:
当社は海外向けに「医療用弾性ストッキング」を輸出している。病院での利用が主だ。これまでに、タイ、ベトナムへの取引実績がある。特にアジア向けでは「メード・イン・ジャパン」の信頼度が高く、日本製にこだわって生産している。世界的に見ると、欧州製の弾性ストッキングのシェアは高いものの、アジアの利用者では仕様(体型)が日本人と似ていることから、当社の製品が人気。タイ、ベトナムへは直接輸出している。今後、マレーシアやモンゴルへの輸出を検討している。
質問:
FTAの利用状況は。
答え:
2015年ごろから、タイ向けの輸出で日タイFTAを利用している。現地医療機関からの依頼がきっかけとなり利用を始めた。タイ側の現行関税35%(MFN税率)がFTAの利用によって0%になっているので、削減メリットは大きい。また、ベトナム向け輸出では日ベトナムFTAを利用し、0%に。2020年には新型コロナウイルス禍だったものの、ベトナムに2度出荷する機会があった。
調達では、ドイツから加工糸(ナイロンを組み合わせたもの)とゴムバンドを輸入しており、日EU・EPAを利用している。英国産(ポリウレタン)の材料が一部あり、2021年1月以降、英国のEU離脱後の移行期間終了に伴い、英国産材料がEU原産として累積できなくなった。(非原産材料である)英国産材料により、当該製品の原産地規則(関税番号変更)が満たせない場合があったが、その中でもデミニマス(僅少)規則(注)に合致するケースではFTAを活用している。
質問:
FTA利用に当たってのメリットや課題は。
答え:
メリットは、関税撤廃・削減によるコスト削減。輸入では調達コストの削減につながる可能性もあり、新たな協定の発効状況などを注視していく。今後の課題では、2022年に予定されているHSコード改正への対応がある。原産地証明書に記載する関税分類番号や、サプライヤーの宣誓書に記載してもらう品目名や分類番号が変わる可能性があるため、書類の見直しが必要になる。また、現時点でFTA利用に特化した社内体制を構築してはいないが、取引先の国・地域が増えると、書類作成にも時間がかかるため、体制強化を検討したい。
質問:
今後のFTA活用について。
答え:
輸出予定のマレーシア、モンゴル向けについて(日本との2国間の)FTA利用を検討している。そのほか、中国への輸出も検討しているため、「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」についても活用を検討している。中国向け輸出品目の現地側での関税引き下げスケジュールを調べたところ、現行関税16%(MFN税率)が、毎年の均等引き下げにより10年間で0%になる。発効から最初の数年間は、利用にかかる手続きコストや原産地証明の発行手数料などを考慮すると、メリットは大きくない。ただし、数年後には税率面でのメリットがコストを上回ることが想定されるため、その時点で利用を開始したい。
質問:
今後の海外ビジネス展開は。
答え:
当社製品のサプライチェーンについては、原料や輸送コストが高騰している現状から、リスク分散を図るべく複数先からの調達を検討している。販路拡大については、コロナ禍で出張の機会が減ってしまったものの、ウェブでの商談会を積極的に実施している。新規顧客開拓を含め、オンラインでの関係づくりを継続していく。

輸出している弾性ストッキング(ジェトロ撮影)

注:
「デミニマス(僅少)」とは、一部の非原産材料がCTCルールを満たさない場合でも、それが特定の割合以下(ごくわずか)であれば無視してよいというルール。同社の扱っている製品の場合、日EU・EPA協定のデミニマスの基準値は20%に定められている。デミニマスは協定ごとに対象品目・割合が大きく異なることから、利用を検討する際には協定の内容を十分に確認する必要がある。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。