全人代「国民経済・社会発展計画案についての報告」を読み解く(中国)
2024年の経済・社会発展に向けた中国の政策

2024年4月9日

中国の第14期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が2024年3月5~11日、北京市で開催された(2024年3月6日付ビジネス短信参照)。同会議では「政府活動報告」のほか、国家発展改革委員会が作成した「2023年国民経済・社会発展計画の執行状況と2024年国民経済・社会発展計画案についての報告」(以下、計画)などが審議・可決された。本稿では同計画の概要を紹介する。

2024年のGDP成長率は「5%前後」に設定

計画では、2024年の経済・社会発展の主な目標として、­­実質GDP成長率を5%前後、消費者物価上昇率を3%前後、都市部新規就業者数を1,200万人以上、都市部調査失業率を5.5%前後とした。そのほか、食糧生産量を6億5,000万トン以上とし、GDP単位当たりエネルギー消費量を2.5%前後減少させるとした。

また、政策の方向性について、「穏中求進」(安定の中で前進を求める)、「以進促穏」(前進で安定を促す)、「先立後破」(先行して新しいかたちを作り、その後に古いものをなくす)を堅持するとした。積極的な財政政策を適切な範囲で強化し、財政政策の質を向上させ、効果の増大を図ることや、堅実な金融政策を柔軟かつ適切に、的確かつ有効に実施することなどが示された。

計画では、2024年の経済・社会発展を推進するにあたり、以下の10項目の主要任務に取り組むとした。

  1. 科学技術イノベーション主導の現代化産業体制を構築し、新たな質の生産力(注1)の形成を加速させる。
  2. 内需拡大に注力し、消費と投資の機能をいっそう発揮させる。
  3. 改革を揺ぎなく深化させ、ハイレベルな社会主義市場経済体系を構築する。
  4. より高水準な開放型経済体制を構築し、国内・国際の2つの循環(双循環)と活力を強化する。
  5. 農村の全面的振興を力強く効果的に推進し、農業・農村の現代化を加速させる。
  6. 地域間の協調的発展と新型都市建設を着実に推進し、各地域の産業配置の最適化を加速させる。
  7. 生態文明建設とグリーン・低炭素化をさらに推進し、美しい中国の建設を加速させる。
  8. 経済・金融分野の重大リスクに対するコントロールを強化し、システミック・リスクを生じさせないという最低ラインをしっかりと守り抜く。
  9. 重点分野における安全保障能力を強化し、経済上の安全保障を確保する。
  10. 民生を確実に守り改善し、民生と福祉の向上に努める。

科学技術のイノベーションによる産業振興を図る

前述の10項目の主要任務で、筆頭に挙げられた「科学技術イノベーション主導の現代化産業体系を構築し、新たな質の生産力の形成を加速させる」については、ハイレベルな科学技術の自立自強を全面的に推進し、コア技術の確立を加速させるほか、科学技術のイノベーションを通じて産業振興を促進し、全要素生産性を絶えず向上させるとした。

具体的な取り組みとして、以下の6点が盛り込まれた。

(1)
科学技術によるイノベーション力を高める
(2)
伝統産業の変革、発展、最適化、高度化を加速させる
(3)
新興産業と未来産業(注2)を積極的に育成する
(4)
デジタル技術と実体経済の高度な融合を促進する
(5)
現代サービス業の発展を加速させる
(6)
近代的インフラ整備の建設を加速させる

(1)においては、産業発展のニーズに応え、国家戦略的科学技術力と社会的イノベーション資源を統合し、国家重要科学技術プロジェクトを実施する。また、破壊的技術、最先端技術の基礎研究と応用研究双方を強化し、基礎研究分野においてブレイクスルーを起こすとした。さらに、企業主体の技術革新を強化するため、企業による国家科学技術重要プロジェクトの実施、企業による研究開発投資、とくに基礎研究への投資拡大を支援するとした。

(3)では、新エネルギー車、情報通信などの新興産業の優位性を強化するとともに、バイオ製造、商業宇宙産業、新素材、低空経済(注3)など新たな成長分野を育成するとした。また、未来産業の発展計画(2024年2月7日付ビジネス短信参照)と支援策を策定し、量子技術や生命科学などの新たな成長ルートを切り開くほか、水素など未来エネルギー産業の発展を加速させるとした。

(4)については、データの所有権、データの取引、データ活用により得た収益配分、データの安全対策などに関する制度の整備を加速させ、デジタルインフラの構築を適宜前倒しして実施するとした。また、「データ要素×」行動計画(2024年1月22日付ビジネス短信参照)を実施し、データ産業の発展と産業におけるデータの活用の双方を推進し、国際的競争力を持つデジタル産業クラスターを構築するとした。

自動車などの買い替え推進や生産設備などの更新・改造で内需拡大に取り組む

10項目の主要任務の2番目に挙げられた「内需拡大に注力し、消費と投資の機能をいっそう発揮させる」については、消費と投資の拡大のための具体的な取り組みが以下の通り挙げられた。

消費の拡大については、地域に応じた自動車購入制限措置の最適化、電気自動車(EV)の充電インフラシステムの整備、自動車・家電などの耐久消費財の買い替えの推進(2024年3月22日付ビジネス短信参照)などが挙げられた。また、スマートホームやエンターテインメント・観光、スポーツ大会、国貨「潮品」(注4)などの新たな消費成長分野を積極的に育成するとした。

有効な投資の拡大については、より多くの民間資本が国家重要プロジェクトや脆弱(ぜいじゃく)分野補強プロジェクトへ参入することを奨励・誘致し、生産設備やサービス設備の更新・改造を推進するとした。資金が重要戦略や重点分野、脆弱部分に充てられるよう誘導することなどが挙げられた。

電信などサービス市場への参入規制緩和や外国人入国の利便性向上で外資誘致強化

10項目の主要任務の4番目に挙げられた、高水準な開放型経済新体制の整備については、国際経済・貿易ルールをベンチマークとし、重点分野でのハイレベルの開放を推進するとともに、対外貿易と外資誘致の基盤を強固にすること、「一帯一路」の質の高い共同建設を推進し、グローバルガバナンスに積極的に参与するとした。

外資誘致については、外資系企業に対し、製造業の参入制限を撤廃し、電信、医療分野などのサービス市場への参入条件を緩和するとした。また、ビジネス環境の改善を継続して進め、就労・留学・観光目的の外国人入国の利便性を向上する。さらに自由貿易試験区の改善をより一層推進する。

不動産、地方債務、中小金融機関などのリスク予防・解消を強化

10項目の主要任務の8番目に挙げられた、経済・金融分野の重大リスクに対するコントロールについては、不動産と地方債務について具体的な政策が挙げられた。不動産市場の安定成長に向けた取り組みとして、住宅の確実な引き渡しを保証すること、不動産開発企業の合理的な資金調達需要を国有企業、民営企業の差別なく満たすこと、建設中の住宅の予約販売により得た資金の監督管理を強化することが挙げられた。また、保障性住宅の建設、平時・緊急時両用の公共インフラの整備、「城中村(都市の中の村)」(注5)改造を加速させること、不動産業のビジネスモデルの刷新を急ぐことなどが盛り込まれた。

地方債務リスクの予防・解消については、包括的な債務解消プランの実施を一層進め、既存の債務リスクを適切に解消するとともに新規債務のリスクを厳しくコントロールすること、質の高い発展に対応した政府債務管理の体制を確立すること、地方政府融資プラットフォームのモデル転換を推進することが挙げられた。


注1:
中国中央電視台(CCTV)の解説では、技術の革命的なブレイクスルー、生産要素のイノベーティブな配置、産業の深い転換・レベルアップにより生み出される先進生産力とされる。
注2:
未来産業とは、最先端の技術によって牽引され、現在、萌芽段階または産業化の初期段階にあり、戦略性が高く、リードする力が強く、破壊的な影響力を持ち、不確実性が大きく、将来性のある新興産業とされている。
注3:
ドローンなどの有人・無人航空機による1,000メートル未満の低高度飛行活動や、関連分野の統合・発展によってもたらされる総合的な経済を指す。
注4:
中国宏観経済研究院産業所副研究員の李子文氏の解説によると、「国潮」は現代のトレンドに中国の伝統文化要素を組み合わせた、強いデザイン性が特徴とされる(「中国発展網」(2024年1月11日)。一方、国貨「潮品」はデザインやトレンドを追究した服装品、靴、化粧品といった国産ブランド商品のみならず、食品、日用品、家具なども対象となり、デザインだけではなく優れた技術力や高品質で消費者の信頼を獲得している国産ブランド商品であることが特徴とされる。
注5:
都市の中で「農業集体経済組織の村人およびそれを継承した組織が使用する、非農業建設用地」に建設されたエリア。居住環境が悪く、インフラが脆弱(ぜいじゃく)などの問題を抱えているとされる。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
張 敏(ちょう びん)
1999年、ジェトロ・北京事務所入構。2004年10月より調査業務に従事。