特集:女性の経済エンパワーメントサービス・金融業の多国籍企業のアフリカ展開を促進(モロッコ)
モロッコ社会における女性の活躍(2)


2019年8月5日

モロッコでは、2019年7月にモロッコ初の女性の地域圏知事が誕生するなど、女性の社会における活躍が期待される(2019年7月18日付ビジネス短信参照)。カサブランカ・ファイナンス・シティ(CFC)を管理運営するカサブランカ・ファイナンス・シティ・オーソリティ(CFCA:Casablanca Finance City Authority)のラミア・メルズーキ副総裁に、現在の活動内容やこれまでの経験、女性の社会進出の現状について話を聞いた(2019年6月21日)。

CFCAは、モロッコの商業都市カサブランカを、アフリカの金融都市として発展させるべく官民パートナーシップから誕生した政府系企業である。2010年に設立された、モロッコ唯一の金融・サービス業向けの税制優遇ゾーンであるCFCを管理・運営する。すでに180社(うち3社は日系企業)がCFCステータスを取得し、CFCを拠点に46カ国で事業を展開する。


CFCAのラミア・メルズーキ副総裁(CFCA提供)

20代で大企業の役員を経験、子育てと仕事の両立を達成

質問:
現在の活動は。
答え:
2010年のCFC設立から携わり、現在は副総裁として、ビジネス開発部門、企業サポート部門、南南協力部門を統括している。CFCは、モロッコのビジネスおよび金融のハブであり、モロッコからアフリカ市場への直接的かつ広範囲のアクセスを求めている多国籍企業のための専用プラットフォームだ。特別なCFCステータスの提供により、アフリカにおけるビジネスを促進するサポートと、魅力的な価値を提供している(注)。
質問:
現在に至るまでの経緯、これまでの過程で苦労したことは。
答え:
人生の節目は大きく2つある。28歳の時に、モロッコの大手企業の役員に抜てきされた。当時の10人の役員の平均年齢は40歳代で、自分のほかにもう一人、女性がいたが40代であった。当時は、若い女性は男性社会で成功できないという風潮があったが、自分を選んでくれた会社のCEO(最高経営責任者)の信頼を失わないように、また今後もCEOが自分のような若者を重役に抜てきできるように、仕事に貢献していることを証明できるよう努めた。
どのように困難を乗り越えたかというと、まずは自分を乗り越えることだ。それは、自身の失敗に対する恐怖と内面のバリアに立ち向かい、存在論的安心(ontological security)を築くことだ。そうすることで、自身の積極性を高め、集団の中で自分が居心地の良い場所を見つけ、自信やポテンシャルを高めることにつながった。
前述を実現するために、日課として最低1時間半、ヨガや呼吸法のようなメディテーション[瞑想(めいそう)]を行った。雨の日も晴れの日も、毎日やっている。瞑想により、いかなる困難に出会ったときでも、正しい知的な明晰(めいせき)さをもつことが可能になり、聞き取る力を高め、共感力や感情知能を高めた。
2つ目の苦労は、キャリアと母親の両立だ。母親になることは、自分の成長を押し上げた。自尊心、自己意識、自己成長を高めてくれた。母親になるまでは典型的な仕事中毒者だったため、母親になることは、自分にとって人生のターニングポイントだった。(会社の仕事と母親の仕事の)2つの仕事を同時に持つようなものだと気付き、両立させることが自分にとって欠かせないことになった。うまく両立するために的確なバランスを保ち、両立できるようエネルギーを保つ方法を持つ必要があった。そのため、瞑想や呼吸法、ヨガ、レイキにまい進した。おかげで、自分に何が必要で何を求めているかが明確になった。自分にとってキャリアで成功するためには、子どもと十分に時間を過ごすことが大切だった。
私たち女性は、たくさんの否定的な考えを抱きがちだと思う。例えば、女性が権力をもつこと、成功すること、率直になることは間違っているといったように。また、周りから評価されることへの恐怖、悪い母親・妻になることへの恐怖などを持つことがあるが、恐怖は障害をつくりだしてしまう。自身が考えていることは、実際に現実になる。自身の優先順位に従って行動し、他の女性への道を開くことができる。

組織に初の時短制度を導入し、働く女性の活動を推進

質問:
子育てと仕事を両立するにあたり工夫したことは。
答え:
子供をもつにあたり、妊娠後に自分の子育ての時間を持ちつつ、会社に仕事の成果が残るウィンウィンな形でパートタイムとして働けないか、上司に交渉を試みた。モロッコではあり得ないことだった。しかし上司は、試してみることに賛成してくれた。
母親1年目は、当初の仕事時間を半分に減らし、その後は80%まで増やすようにしていった。時短の勤務期間は、職場でも家庭でもエネルギーのバランスをとり、エネルギーを消費するのではなく、エネルギーを生かして、優先順位を付けた行動のとり方を学ぶことができた。時短勤務は、自身の会社への貢献度や、労働パフォーマンスを下げるわけではないことを証明することができた。
現在、CFCAでは女性の時短勤務は制度として取り入れられ、すべての若い女性に適用される。この制度は小さいことのように見えるかもしれないが、私たち女性職員にとって大きな原動力になっている。女性はキャリアの成功と家庭のいずれかを選ばなければならないのではなく、両立するべきだ。2つのうち1つを犠牲にする必要はない。本制度は、他の企業と比べた強みにもなっており、優秀な人材を引き付け(会社に)とどめることを可能にしている。現在は、CFCAの約半分は女性職員である。理解あるCEOのおかげで、(CFCAでは)女性は高く評価され、強い発言権を持つ。自身の経験上、女性が前進する上で、男性の協力は欠かせないと思う。

北アフリカの女性リーダーとして、女性の活躍を促進

質問:
現在の目標と信念は。
答え:
目標は、自身の経験を他人、特に女性に共有してもらい、女性をエンパワーメントすることだ。2018年7月に、初のアフリカ全体でのビジネス界における女性リーダーの会議(The Women in Business Network)が開催された。アフリカ内の女性をエンパワーメントするべく、アフリカ32カ国から200人の女性のビジネスリーダーが参加し、アフリカを6地域に分け、各地域から2人のリーダーを選出した。北アフリカのリーダーに選ばれたので、今後は女性のリーダーシップの育成に貢献したい。そのために、(価値観を形成する大切な期間である幼少期の)女児の教育機会の改善が必要と考える。心身ともに成長し、ワークライフバランスを持つことは成長へのカギだと思う。
質問:
モロッコの女性の社会進出の現状とは。
答え:
グローバル・ジェンダーギャップ指数が示すように、モロッコは男女平等の点では大変遅れている(144カ国中137位)。アフリカの他の国を見ると、ルワンダ(6位)、ナミビア(10位)、南アフリカ共和国(19位)、ブルンジは(31位)で、モロッコは他のアフリカ諸国から男女平等において多くを学ぶことができる。
女性リーダー会議の北アフリカ代表として、現在は女性の役員数を増やすことが目標だ。アフリカの地域リーダーは、年に一度、6月に集まる。女性のリーダーシップ育成のために各地域で毎年3つのイベントが開催される。モロッコで2019年に開催したイベントは、女性の役員数を拡大することをテーマにした会議だ。

モロッコ社会で成功する4つの秘訣

質問:
質問:(モロッコ)社会で成功する秘訣(ひけつ)は。
答え:
以下4つを意識している。
  1. 自身の障害や恐怖を認識すること。
  2. 自身に最適なものを求めること、プロアクティブになること。
  3. 仕事と家庭の適切なバランスを見つけること。
  4. 仕事と私生活に相乗効果を見つけること。
仕事に専念する必要がある時もあれば、一方で家庭や子供に時間をかける必要がある時もある。最適なバランスを見つけることは簡単ではない。常に優先順位を付けて対応し、両立を目指す。自分の実践例として、仕事の出張時は子供とビデオコールをする、出張後に出張時で訪れた場所の写真を子供に見せるなど、ワークライフに子供を極力含めるようにする。そして、出張後は子供と旅行に行くなど、子供との時間を大切にしている。子供の存在は同時に仕事を頑張る原動力になる。もう1つの実践例は、家族と何か習慣をもつこと。例えば、自分が時短で働いていた時は、毎週水曜日は休みをとり、母親としての時間として最大限活用できた。
仕事は自己成長につながる要素として捉えることが大切。仕事は、特に国際関係といった点では簡単でシンプルなものではないが、自分自身の成長に良い影響を与えてくれた。企業の世界は人生の美しいメタファーであると考える。また仕事は、争いや問題事に出くわし、自分の私生活では進んで付き合わないような人たちと関わる。自分自身に向き合い、自身の内面や精神力を高める良い機会になった。私生活と職業人生を調整するよりも、自己充足感に合うような職能開発を行う道を選んだ。自己成長はいつも仕事上での成長につながっている。

日本固有の文化に魅力を感じるも、男性中心の社会に疑問

質問:
日本に対するイメージや関心、メッセージは。
答え:
日本は独特な文化と特徴的な伝統をもつ国であると評価している。長い間孤立した歴史をもつ離島である日本は、海外からの影響を受けずに発展した特異の文化を持つ。日本の近代化は、精巧さ・巧妙さの象徴だと考える。例えば、日本の茶会や茶道は、茶を楽しむ上で最もフォーマルでエレガントな方法であり、香道や華道と並び、優美な3芸道の1つである。そして、日本の皇室は世界で最も古くから続く君主制だ。これまで3回、日本を訪問したことがあり、特に京都に魅了された。
一方、日本はとても男性社会だと思う。多くの日本企業と会議の機会を持ったが、出席者の中にほとんど女性の姿を見かけなかったことには大変驚いた。前述の秘訣は、万国共通であり、日本の女性が自身の目標を達成するために活用いただけることを願う。

次回は、スタートアップエコシステムを牽引する2人の女性


注1:
参照:Casablanca Finance City外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。東京本部にて、ビジネス講座やセミナーのライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコでの日本企業の投資促進や現地活動支援に従事するとともに、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等にも携わる。