特集:2021年中南米の貿易動向2021年の輸出入はともに増加、往復貿易額は過去最高を更新(メキシコ)
国内生産の活性化で中間財輸入が増加、再び貿易赤字に

2022年9月12日

2021年のメキシコの貿易は、金額ベースで輸出入ともに前年比増加し、輸出総額と輸入総額を合計した往復貿易額は過去最高額を記録した。新型コロナ禍一巡による消費需要の増加で、国内の生産活動も再開したことから中間財の輸入が伸び、貿易赤字に転じた。主要品目別にみると、自動車部品や国際価格高騰の影響を受けた原油の輸出が大幅に増加した。一方、輸入では農産・林産品や原油価格高騰の影響を受けてガソリン・ディーゼルの輸入額が大幅に伸びた。

需要回復で貿易収支は赤字基調へ

中央銀行および国立統計地理情報院(INEGI)によると、 2021年の貿易は、輸出が前年比18.5%増の4,942億2,500万ドル、輸入は32.0%増の5,057億1,600万ドルだった。輸出総額と輸入総額を合計した往復貿易額は9,999億4,100万ドルと1兆ドルに迫り、過去最高額となった。新型コロナ感染拡大が始まった2020年は、外出自粛などによる需要減や政府当局の操業規制で生産が低迷したことにより、中間財などの輸入が減少したため、過去最高の黒字額を記録したが、2021年には需要が回復して輸入が大幅に増加し、貿易収支は114億9,100万ドルの赤字に転じた。メキシコは、部品・原材料などの中間財や、機械など資本財の多くを輸入に依存していることに加え、原油産出国ではあるもののガソリンなど石油精製品の多くを輸入しているため、貿易収支は以前から赤字基調だった。2021年に輸入が大きく伸びて輸出の伸びを上回り、貿易収支が赤字となったことは、国内での生産活動や消費が活発化した証左とも言える。

輸出を品目別にみると、新型コロナ禍の発生で急激な需要減に見舞われた2020年の反動から、2021年は主要品目で軒並み前年比プラスとなった。最も構成比が大きい工業製品・同部品が4,360億7,600万ドルで前年比16.7%増、うち自動車・同部品は1,398億4,200万ドルで13.8%増だった(表1参照)。内訳をみると、乗用車の輸出は408億5,700万ドルで0.9%増にとどまったが、自動車部品の輸出が好調だった。原油は世界的な価格の高騰も影響し、63.3%増の239億8,400万ドルだった。輸出量は日量101万8,000バレルで9.1%の減少だった。その他、電気・電子機器は764億5,000万ドルで15.2%増、産業用機械機器は723億3,300万ドルで12.3%増だった。

輸入を品目別にみると、最も構成比が大きい工業製品・同部品が前年比28.0%伸長した。また、原油価格の上昇が影響してガソリン・ディーゼルの輸入額が46.9%増と大幅に増加し、農産・林産品も42.4%増と大きく伸びた。

表1:メキシコの主要品目別輸出入

輸出(単位:100万ドル、%)
項目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
輸出総額(FOB) 416,999 494,225 100.0 18.5
農産・林産品 16,427 17,786 3.6 8.3
畜産・水産品 1,857 1,882 0.4 1.4
鉱産品 24,891 38,480 7.8 54.6
階層レベル2の項目原油 14,684 23,984 4.9 63.3
工業製品・同部品 373,823 436,076 88.2 16.7
階層レベル2の項目自動車・同部品 122,894 139,842 28.3 13.8
階層レベル3の項目乗用車 40,489 40,857 8.3 0.9
階層レベル2の項目電気・電子機器 66,360 76,450 15.5 15.2
階層レベル3の項目カラーテレビ・ディスプレイ 13,066 15,730 3.2 20.4
階層レベル3の項目データ送受信機器 14,106 14,138 2.9 0.2
階層レベル2の項目産業用機械機器 64,383 72,333 14.6 12.3
輸入 (単位:100万ドル、%)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
輸入総額(FOB) 382,986 505,716 100.0 32.0
農産・林産品 12,229 17,409 3.4 42.4
畜産・水産品 566 933 0.2 64.9
鉱産品 33,702 56,656 11.2 68.1
階層レベル2の項目ガソリン・ディーゼル 16,953 24,912 4.9 46.9
工業製品・同部品 336,489 430,717 85.2 28.0
階層レベル2の項目繊維・アパレル・皮革 10,775 13,790 2.7 28.0
階層レベル2の項目自動車・同部品 45,031 54,948 10.9 22.0
階層レベル2の項目産業用機械機器 57,756 69,236 13.7 19.9
階層レベル2の項目電気・電子機器 81,357 98,842 19.5 21.5

注:2021年は暫定値。構成比はすべて総額に対する比率。
出所:中央銀行(Informe Annual 2021)およびINEGI貿易統計から作成

輸出を国・地域別にみると、全体の8割を占める米国向けが前年比17.7%伸びた(表2参照)。最大の輸出品目はコンピュータ機器で6.0%増、次に自動車部品が17.9%増、ケーブル類が19.1%増だった。新型コロナ感染拡大前は最大の輸出品目は乗用車だったが、2021年では4番目となっており、輸出金額も10.9%減少している。その他、アジア諸国向けの輸出が19.2%増、EU向けも18.1%増加している。

輸入を国・地域別にみると、全体の43.7%を占める米国からの輸入が前年比31.7%増加した。米国からの輸入額が最も大きいのは天然ガスおよび液化石油ガス(LPG)で2.4倍、自動車部品が12.2%増と続いた。米国の次に輸入が多いのは中国で、37.4%増加した。

表2:メキシコの主要国・地域別輸出入 (単位:100万ドル,%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
北米 349,841 411,829 83.3 17.7 176,088 232,236 45.9 31.9
階層レベル2の項目米国 338,701 398,782 80.7 17.7 167,762 220,988 43.7 31.7
階層レベル2の項目カナダ 11,139 13,047 2.6 17.1 8,326 11,249 2.2 35.1
中米 6,437 8,334 1.7 29.5 2,321 3,295 0.7 42.0
階層レベル2の項目グアテマラ 1,914 2,442 0.5 27.6 484 656 0.1 35.5
階層レベル2の項目コスタリカ 782 971 0.2 24.2 716 830 0.2 15.9
南米 10,091 13,084 2.6 29.7 9,623 14,602 2.9 51.7
階層レベル2の項目ブラジル 3,055 3,657 0.7 19.7 5,634 8,806 1.7 56.3
階層レベル2の項目コロンビア 2,613 3,434 0.7 31.4 967 1,401 0.3 44.9
階層レベル2の項目チリ 1,319 2,080 0.4 57.7 1,305 2,133 0.4 63.4
階層レベル2の項目アルゼンチン 712 917 0.2 28.8 588 937 0.2 59.4
階層レベル2の項目ペルー 1,195 1,558 0.3 30.4 573 701 0.1 22.3
階層レベル2の項目ベネズエラ 270 230 0.0 △ 14.8 17 14 0.0 △ 17.6
カリブ 1,619 2,618 0.5 61.7 971 1,123 0.2 15.7
アジア 24,360 29,047 5.9 19.2 146,530 193,387 38.2 32.0
階層レベル2の項目中国 7,891 9,257 1.9 17.3 73,506 101,021 20.0 37.4
階層レベル2の項目日本 3,652 4,169 0.8 14.2 13,897 17,085 3.4 22.9
階層レベル2の項目韓国 5,361 6,713 1.4 25.2 14,710 19,055 3.8 29.5
階層レベル2の項目マレーシア 218 271 0.1 24.3 10,833 12,448 2.5 14.9
階層レベル2の項目台湾 491 574 0.1 16.9 8,761 11,790 2.3 34.6
階層レベル2の項目タイ 314 333 0.1 6.1 5,327 6,529 1.3 22.6
階層レベル2の項目インド 2,616 4,174 0.8 59.6 4,255 5,931 1.2 39.4
階層レベル2の項目シンガポール 733 837 0.2 14.2 1,771 1,992 0.4 12.5
階層レベル2の項目香港 1,190 852 0.2 △ 28.4 403 468 0.1 16.1
EU 18,148 21,430 4.3 18.1 40,076 50,560 10.0 26.2
階層レベル2の項目ドイツ 6,586 7,541 1.5 14.5 13,871 17,233 3.4 24.2
階層レベル2の項目スペイン 3,323 4,911 1.0 47.8 3,762 4,593 0.9 22.1
階層レベル2の項目フランス 1,295 1,380 0.3 6.6 3,390 4,126 0.8 21.7
階層レベル2の項目オランダ 2,041 2,343 0.5 14.8 2,034 2,643 0.5 29.9
階層レベル2の項目イタリア 1,166 1,015 0.2 △ 13.0 4,838 6,109 1.2 26.3
その他欧州 4,538 5,583 1.1 23.0 5,473 8,152 1.6 48.9
階層レベル2の項目英国 2,619 3,032 0.6 15.8 1,811 2,096 0.4 15.7
アフリカ 698 911 0.2 30.5 1,298 1,623 0.3 25.0
オセアニア 1,115 1,216 0.2 9.1 586 718 0.1 22.5
階層レベル2の項目オーストラリア 1,000 1,054 0.2 5.4 268 389 0.1 45.1
合計 416,999 494,225 100.0 18.5 382,986 505,716 100.0 32.0

注:2021年は暫定値。英国は2020年1月31日にEUを脱退したため、同日以降はEUの輸出入総額から除く。
出所:中央銀行(Informe Annual 2021)から作成

日本の対メキシコ輸出は軒並み回復対メキシコ輸入も農水産食料品が堅調

日本の貿易統計(通関ベース)によると、2021年の日本の対メキシコ輸出(FOB)は前年比29.0%増の108億2,900万ドルだった。主要輸出品目をみると、自動車部品は16億3,400万ドルで17.5%増加したが、乗用車は7億7,300万ドルで15.3%減少した(表3参照)。鉄鋼・同製品は21億8,600万ドルで74.5%増加し、一般・産業機械も26.0%増と堅調だった。2020年は新型コロナ感染症が拡大したことから、メキシコと日本の両国で景気後退や生産の一時停止が生じ、日本の対メキシコ輸出の主要品目は軒並み前年比でマイナスを記録したが、2021年は乗用車を除く全ての主要品目でプラスとなった。

日本の対メキシコ輸入(CIF)は57億6,500万ドルで前年比6.0%増加した。品目別にみると、工業製品では、電気・電子機器が7.7%減、輸送機械が29.1%増、精密・光学機器が6.4%増だった。農水産食料品の輸入総額は、13億6,500万ドルで6.4%増加した。そのうち、構成比が最も大きい食肉では、豚肉が7.0%増で、牛肉は69.8%増と大きく増加した。果実、ナッツについては、アボカド、バナナが減少した一方、マンゴーが34.0%増、クランベリー・ブルーベリーが26.7%増と大幅に伸びている。

表3:日本の対メキシコ主要品目別輸出入

輸出(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
対メキシコ輸出総額(FOB) 8,394 10,829 100.0 29.0
農水産食料品 9 12 0.1 32.3
鉱物生産品 45 108 1.0 142.0
化学品 200 289 2.7 44.6
繊維製品 46 60 0.6 30.8
鉄鋼・同製品 1,253 2,186 20.2 74.5
一般・産業機械 1,658 2,088 19.3 26.0
階層レベル2の項目ガソリンエンジン 164 247 2.3 50.6
階層レベル2の項目エンジン用部品 230 244 2.3 5.9
階層レベル2の項目機械類(固有の機能を有する) 153 219 2.0 42.6
階層レベル2の項目ギヤボックス・変速機・駆動軸 167 198 1.8 18.7
階層レベル2の項目加熱機器・湯沸かし器など 88 129 1.2 45.9
階層レベル2の項目金型類 87 114 1.1 30.9
階層レベル2の項目コック・弁類 86 107 1.0 24.0
階層レベル2の項目玉軸受・ころ軸受 78 92 0.9 18.0
階層レベル2の項目印刷機・プリンタ 69 80 0.7 16.5
階層レベル2の項目マシニングセンターなど 24 63 0.6 166.1
電気・電子機器 1,326 1,731 16.0 30.5
階層レベル2の項目スイッチ,回路部品 152 194 1.8 27.6
階層レベル2の項目着火・点火用電子機器 138 170 1.6 23.4
階層レベル2の項目蓄電池 100 140 1.3 40.2
階層レベル2の項目テレビ・ラジオ部品 94 115 1.1 22.9
階層レベル2の項目電動機・発電機 85 114 1.0 33.5
階層レベル2の項目照明機器、ウインドスクリーンワイパー 70 87 0.8 24.3
階層レベル2の項目ケーブル・配線セット 62 79 0.7 28.0
階層レベル2の項目電気回路機器用部品 61 76 0.7 26.1
階層レベル2の項目集積回路 47 76 0.7 60.8
輸送機械(鉄道以外) 2,571 2,742 25.3 6.7
階層レベル2の項目自動車部品 1,391 1,634 15.1 17.5
階層レベル2の項目乗用車 914 773 7.1 △ 15.3
階層レベル2の項目貨物用自動車 173 231 2.1 33.8
光学・精密機器 322 390 3.6 21.1
その他 965 1,223 11.3 26.7
階層レベル2の項目プラスチック製品 263 327 3.0 24.4
輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
対メキシコ輸入総額(CIF) 5,439 5,765 100.0 6.0
農水産食料品 1,283 1,365 23.7 6.4
階層レベル2の項目食肉 604 687 11.9 13.7
階層レベル3の項目豚肉 514 550 9.5 7.0
階層レベル3の項目牛肉 64 108 1.9 69.8
階層レベル2の項目果実,ナッツ 321 313 5.4 △ 2.3
階層レベル3の項目アボカド 190 186 3.2 △ 2.1
階層レベル3の項目バナナ 69 65 1.1 △ 5.7
階層レベル3の項目マンゴー 11 15 0.3 34.0
階層レベル3の項目クランベリー・ブルーベリー 11 14 0.2 26.7
階層レベル2の項目魚介類 77 71 1.2 △ 7.0
階層レベル3の項目クロマグロ 38 46 0.8 19.4
階層レベル3の項目エビ 18 16 0.3 △ 7.6
階層レベル2の項目野菜類 87 95 1.6 8.9
階層レベル3の項目アスパラガス 44 45 0.8 0.9
階層レベル3の項目カボチャ 29 37 0.6 26.5
階層レベル3の項目トマト 5 5 0.1 △ 4.7
階層レベル2の項目野菜・果実調整品 52 50 0.9 △ 4.5
階層レベル3の項目冷凍オレンジ果汁 21 19 0.3 △ 10.2
階層レベル2の項目飲料、アルコール 33 30 0.5 △ 9.3
階層レベル3の項目テキーラ・メスカル 20 17 0.3 △ 10.7
鉱物生産品 456 450 7.8 △ 1.3
階層レベル2の項目原油 34 53 0.9 54.4
階層レベル2の項目 89 93 1.6 4.5
階層レベル2の項目亜鉛鉱 94 134 2.3 42.4
化学品 202 238 4.1 18.1
繊維・縫製品 46 38 0.7 △ 18.7
金属・同製品 58 94 1.6 63.9
一般・産業機械 564 499 8.7 △ 11.5
階層レベル2の項目コンピュータ・同ユニット 305 218 3.8 △ 28.5
階層レベル2の項目エンジン部品 67 72 1.2 6.4
電気・電子機器 1,092 1,008 17.5 △ 7.7
階層レベル2の項目音声-画像の送受信・変換・再生機械 304 244 4.2 △ 19.9
輸送機械 581 749 13.0 29.1
階層レベル2の項目乗用車 308 438 7.6 42.2
階層レベル2の項目自動車部品 270 306 5.3 13.4
精密・光学機器 768 818 14.2 6.4
階層レベル2の項目医療用・獣医用機器 562 590 10.2 5.1
その他 390 506 8.8 29.7
座席部品(自動車用革製シート) 0 1 0.0 303.3

出所:財務省「貿易統計(通関ベース)」から作成

エネルギー政策が国際問題へと発展

2021年7月1日には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効から1周年を迎えた。そうした中、近年のメキシコ政府によるエネルギー政策の転換が、USMCAの懸案事項として浮上している。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は2021年10月、電力分野における国の権限を強化する憲法改正案を国会に提出した。同改正案は、1992年の関連法改正や2013年末以降のエネルギー改革により、自由化された電力市場において競争力を低下させてきた電力庁(CFE)を民間企業より優遇し、保護する目的で立案されたもの。しかし、民間企業の既存ビジネスを阻害する、また、民間企業の公正な競争下における操業の権利を侵害するとして、経済界や識者から反対の声が相次いだ。

国内だけでなく、米国カナダ両政府からもUSMCAに違反するとして懸念が寄せられ、米国のジョン・ケリー気候変動担当大統領特使は、複数回にわたりメキシコを訪問しAMLO大統領に政策の見直しを求めていた。その後4月にメキシコ国内で行われた電力再国有化に向けた憲法改正案の本会議審議では、採決の結果、賛成275票、反対223票となり、憲法改正に必要な出席議員数の3分の2の賛成には達せず、改正案は却下された。これを受けてAMLO大統領は、現政権中には電力再国有化に向けた憲法改正案を再度提出する考えはない旨を明らかにした。

米USTRは2022年7月、メキシコのエネルギー政策がUSMCAに違反しているとして、同協定の紛争解決手続きに基づいてメキシコ政府に協議を要請した。AMLO政権下で施行された電力、炭化水素分野における国営企業優遇を目的とする法改正や、民間企業への許認可を意図的に出さない、手続きを遅らせるなどの行政府の対応、天然ガス輸送に関する細則レベルでの国営企業優遇などがUSMCAの複数の章に違反すると指摘している。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
松本 杏奈(まつもと あんな)
2008年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課などを経て、2018年9月から現職。