特集:2021年中南米の貿易動向2021年の貿易は輸出入ともに前年比増加、貿易黒字幅は過去最高(ブラジル)
積極的なFTA交渉で貿易のさらなる拡大狙う

2022年8月26日

2021年のブラジルの貿易は、輸出入ともに金額ベースで増加し、貿易収支は過去最高の黒字幅を記録した。鉄鉱石や石油といった主要輸出品であるコモディティ製品の価格上昇が輸出の押し上げ要因となり、最大の輸出相手である中国や米国向け輸出も大きく増加した。ブラジルは、関税同盟メルコスールの他の加盟国と共に、積極的に域外国・地域との自由貿易協定(FTA)交渉を進めている。

コモディティ価格の上昇により、過去最高の貿易黒字を記録

経済省貿易統計(COMEXSTAT)によると、2021年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比34.2%増の2,808億1,500万ドル、輸入は38.2%増の2,194億800万ドル、貿易収支は614億700万ドルの黒字だった(表1参照)。現行の方法で統計を取り始めた1989年以降、過去最高の黒字幅になった。新型コロナ禍からの回復に伴うコモディティ製品の需要増や、サプライチェーンの混乱などによるコモディティ価格の上昇などが、貿易黒字幅の増加につながった。

表1:ブラジルの主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
農畜産業 45,155 55,141 19.6 22.1
階層レベル2の項目大豆 28,564 38,639 13.8 35.3
階層レベル2の項目焙煎(ばいせん)していないコーヒー 4,974 5,805 2.1 16.7
階層レベル2の項目挽いていないトウモロコシ( スイートコーン除く) 5,853 4,189 1.5 △ 28.4
階層レベル2の項目綿花・原綿 3,227 3,406 1.2 5.5
階層レベル2の項目フルーツとナッツ(ノンオイル)生もしくは乾燥 921 1103 0.4 19.8
鉱業 49,052 80,046 28.5 63.2
階層レベル2の項目鉄鉱石およびその精鉱 25,780 44,661 15.9 73.2
階層レベル2の項目石油および歴青油 19,614 30,609 10.9 56.1
階層レベル2の項目銅鉱石および精鉱 2,409 3,369 1.2 39.9
製造業 114,073 144,127 51.3 26.3
階層レベル2の項目砂糖・糖蜜 8,759 9,205 3.3 5.1
階層レベル2の項目牛肉(生鮮、冷蔵、冷凍) 7,447 7,967 2.8 7.0
階層レベル2の項目大豆粕やその他飼料 6,331 7,898 2.8 24.8
階層レベル2の項目石油および歴青油 5,058 7,262 2.6 43.6
階層レベル2の項目鶏肉および食用となる鶏肉の内臓(生鮮、冷蔵、冷凍) 5,555 6,954 2.5 25.2
合計(その他含む) 209,180 280,815 100.0 34.2
輸入(CIF)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
資本財 24,174 24,368 11.1 0.8
階層レベル2の項目資本財(輸送機器除く) 20,946 20,208 9.2 △ 3.5
階層レベル2の項目工業用輸送機器 3,228 4,160 1.9 28.9
中間財 99,416 144,851 66.0 45.7
階層レベル2の項目工業用資材(加工品) 58,026 89,368 40.7 54.0
階層レベル2の項目資本財部品および付属品
(輸送機器用部品除く)
19,894 25,842 11.8 29.9
階層レベル2の項目輸送機器用部品 14,787 20,344 9.3 37.6
階層レベル2の項目工業用資材(原料) 2,432 3,571 1.6 46.8
消費財 21,201 24,017 10.9 13.3
階層レベル2の項目非耐久および半耐久消費財 17,646 18,682 8.5 5.9
階層レベル2の項目耐久消費財 3,555 5,335 2.4 50.1
燃料および潤滑油 13,935 26,093 11.9 87.2
合計(その他含む) 158,787 219,408 100.0 38.2

出所:経済省

輸出を品目別にみると、構成比で15.9%を占める「鉄鉱石およびその精鉱」が前年比で73.2%増加、「石油および歴青油」(構成比10.9%)も56.1%増加した。一方、トウモロコシは28.4%減少した。雨不足による干ばつで、収穫量が減少したことなどが影響した。主要国・地域別の輸出額でみると、第1位の中国(構成比31.3%)が29.7%増で、米国(構成比11.1%)が45.4%増、アルゼンチン(構成比4.2%)も39.9%増加した(表2参照)。チリやシンガポール、韓国はいずれも50%以上の増加となった。

輸入を品目別にみると、資本財(0.8%増)、中間財(45.7%増)、消費財(13.3%増)、燃料および潤滑油(87.2%増)全てが前年比で増加した。主要国・地域別の輸入額でみると、構成比で21.7%を占める第1位の中国が37.0%増加した。米国(41.4%増)、アルゼンチン(51.3%増)、ドイツ(21.1%増)、インド(61.5%増)、ロシア(107.5%増)も大きく伸びた。

表2:ブラジルの主要国・地域別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)
国名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 67,778 87,908 31.3 29.7
米国 21,417 31,145 11.1 45.4
アルゼンチン 8,489 11,878 4.2 39.9
オランダ 6,705 9,316 3.3 38.9
チリ 3,850 7,019 2.5 82.3
シンガポール 3,671 5,821 2.1 58.6
韓国 3,762 5,671 2.0 50.7
メキシコ 3,829 5,560 2.0 45.2
日本 4,127 5,539 2.0 34.2
スペイン 4,057 5,433 1.9 33.9
ドイツ 4,124 5,043 1.8 22.3
カナダ 4,230 4,922 1.8 16.4
合計(その他含む) 209,180 280,815 100.0 34.2
輸入(CIF)(単位:100万ドル、%)
国名 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 34,778 47,651 21.7 37.0
米国 27,856 39,385 18.0 41.4
アルゼンチン 7,897 11,949 5.4 51.3
ドイツ 9,369 11,346 5.2 21.1
インド 4,167 6,728 3.1 61.5
ロシア 2,747 5,699 2.6 107.5
イタリア 4,077 5,479 2.5 34.4
日本 4,191 5,146 2.3 22.8
韓国 4,497 5,108 2.3 13.6
フランス 4,151 4,813 2.2 15.9
メキシコ 3,862 4,561 2.1 18.1
チリ 2,896 4,421 2.0 52.7
合計(その他含む) 158,787 219,408 100.0 38.2

出所:経済省

対日貿易は輸出入額ともに前年比2桁増

経済省貿易統計(COMEXSTAT)によれば、2021年の対日輸出額は前年比34.2%増の55億3,900万ドルだった(表3参照)。構成比32.4%を占める鉄鉱石は倍増した。アルミニウム(87.6%増)およびフェロアロイ(61.5%増)も増加した。国際的な需要増加による輸出価格上昇で、鉱物資源の輸出は日本を含め、全体的に増加した。一方、トウモロコシは53.7%減の3億2,300万ドルだった。

対日輸入額は、前年比22.8%増の51億4,600万ドル。構成比18.1%を占める自動車部品(50.3%増)や自動車用エンジン部品(32.3%増)が押し上げ要因となった。ブラジルの自動車関連企業の中には、世界的な半導体不足の影響を受け、一時的に生産活動を停止する企業もある。ただ、新型コロナの影響を大きく受けた2020年からの反動で、年間の生産・販売・輸出台数は前年比で増加し、これが対日輸入にも影響した。

表3:ブラジルの対日主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄鉱石 892 1,793 32.4 101.0
鶏肉(部分肉) 658 831 15.0 26.3
コーヒー豆 293 403 7.3 37.5
アルミニウム 186 349 6.3 87.6
トウモロコシ 697 323 5.8 △ 53.7
フェロアロイ 179 289 5.2 61.5
大豆 156 216 3.9 38.5
化学木材パルプ 141 190 3.4 34.8
大豆油かす 155 163 2.9 5.2
石油および歴青油 0 65 1.2 全増
合計(その他含む) 4,127 5,539 100.0 34.2
輸入(CIF)(単位:100万ドル、%)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車部品 620 932 18.1 50.3
航行以外の機能を主とする船舶、浮きドック、潜水式のプラットホーム 588 356 6.9 △ 39.5
自動車用エンジン部品 99 131 2.5 32.3
核酸、その塩、その他の複素環式化合物 107 130 2.5 21.5
集積回路 68 111 2.2 63.2
自動調整機器 59 102 2.0 72.9
玉軸受およびころ軸受 65 93 1.8 43.1
鉄鋼製のねじ、ボルト、ナットなど 60 87 1.7 45.0
部分品および付属品(第87.11項から第87.13項までの車両のものに限る) 64 81 1.6 26.6
ピストン式火花点火内燃機関 40 81 1.6 102.5
合計(その他含む) 4,191 5,146 100.0 22.8

出所:経済省

アジア主要国とのFTA交渉を進めるメルコスール

ブラジルは、メルコスール域外とのFTA交渉を積極的に進めている。新型コロナ禍で一時中断していた韓国との交渉を再開し、2021年6月に第6回交渉、9月には第7回交渉を行った。なお、韓国とは、2018年5月から交渉を開始している。

2021年12月には、インドネシアと包括的経済連携協定(CEPA)の交渉を開始する旨で、メルコスールおよびインドネシア双方が合意した。2022年内に第1回交渉が行われる予定だ。2022年7月には、シンガポールとのFTA交渉が妥結した。メルコスールおよびシンガポール双方は今後、条文の法的精査を行い、早期署名および発効を目指す。なお、ブラジル経済省の貿易審議会(CAMEX)は、次のメルコスールの交渉相手としてベトナムにも関心を寄せており、他のメルコスール加盟国(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ)との足並みがそろうかが注目される。

ブラジル単独の動きとしては2022年1月、ブラジル・チリFTAが発効した。チリとの間では既に、財を中心とした経済補完協定(ACE)35号を締結しており、物品貿易については自由化されている中、今回、より幅広い分野をカバーするべく、第64次追加議定書が追加された。当該FTAには、貿易円滑化、電子商取引、貿易および環境、貿易およびジェンダーといった章を含み、ブラジルが締結する通商協定の中でも、最も近代的な内容を盛り込んでいる。

2022年6月には、ブラジルと米国間で、貿易円滑化協定(ATEC:Agreement on Trade and Economic Cooperation)が発効した。この協定は、2国間の貿易手続きの円滑化や規制の透明性向上を目的とした、非関税分野における協定だ。2017年2月に発効したWTO貿易円滑化協定をさらに上回るもので、ブラジルにおけるガバナンス向上や透明性確保に寄与することが期待されている。

執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
古木 勇生(ふるき ゆうき)
2012年、ジェトロ入構。お客様サポート部オンライン情報課(2012~2015年)、 企画部海外地域戦略班(中南米)(2016~2017年)、海外調査部米州課中南米班(2018年)を経て、2019年2月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
エルナニ・オダ
2020年、ジェトロ入構。現在に至る。