主要韓国企業の現在地と展望(韓国)
上半期の業績と新規事業・新戦略

2023年9月21日

2023年7月から8月にかけて、韓国政府や政府系シンクタンク、韓国銀行などが2023年上半期(1~6月)の韓国経済情勢を振り返るとともに下半期(7~12月)の見通しを発表した。それに前後して韓国の主要企業は相次いで、第2四半期(4~6月)の業績を公表し、今後の経営戦略や事業計画などを発表した。米中対立やロシアのウクライナ侵攻、コロナのエンデミック(地域内または季節性の恒常的感染症)化など、世界・社会情勢の目まぐるしい変化が起きる中で、韓国主要企業は2023年上半期をどう振り返るのか、その先をどう展望しているのか、本稿ではこれらについて述べていきたい。

2023年上半期の韓国経済は「屋台骨の不振による停滞期」

はじめに、2023年上半期の韓国経済について、実質GDP成長率と貿易統計に基づいてレビューする。ここで敢えて貿易統計をレビューするのは、韓国経済は、輸出依存度が他国に比べて高く(注1)、輸出の好不調が経済全体に対して影響しやすいためだ。

韓国銀行が発表する四半期ごとの実質GDP成長率をみると、2023年第1四半期は前期比0.3%、第2四半期は同0.6%と、緩やかに増加している。一方で、その内訳をみると、第1四半期、第2四半期ともに輸出入に足を引っ張られており、経済成長の中身に対しては厳しい見方がされている(注2)。

次に、貿易統計をみてみる。具体的に何が足を引っ張っているのだろうか。まず、2022年の年間貿易統計をみると、半導体、石油製品、自動車が輸出の主人公であることが分かる(表1参照)。特に、半導体は輸出金額の18.9%を占める「屋台骨」だ。なお、半導体の輸出金額は、2022年はコロナ禍で一気に広がったオンライン環境の拡大により、PC(パソコン)やタブレット、スマートフォン(スマホ)向けの半導体需要が増加し、2年連続で過去最高額を記録している。輸入については、国際的なエネルギー価格の高騰もあり原油や天然ガスなどが大幅に増加した。

表1:2022年の品目別輸出入金額・構成比

輸出(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 品目名 金額 構成比 前年比
1 半導体 129,229 18.9 1.0
2 石油製品 62,875 9.2 64.9
3 自動車 54,067 7.9 16.4
4 合成樹脂 28,078 4.1 △ 3.7
5 自動車部品 23,316 3.4 2.4
6 鉄鋼板 22,401 3.3 △ 0.4
7 フラットパネルディスプレイ・センサー 21,299 3.1 △ 1.1
8 精密化学原料 18,799 2.8 73.6
9 船舶海洋構造物・部品 18,178 2.7 △ 20.9
10 無線通信機器 17,231 2.5 △ 10.4
輸出計 683,585 100 6.1
輸入(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 品目名 金額 構成比 前年比
1 原油 105,964 14.5 58.1
2 半導体 74,786 10.2 21.8
3 天然ガス 50,022 6.8 96.5
4 石炭 28,332 3.9 92.7
5 石油製品 26,711 3.7 10.9
6 精密化学原料 25,132 3.4 61.2
7 半導体製造用装置 23,170 3.2 △ 10.0
8 コンピューター 16,354 2.2 1.5
9 自動車 15,372 2.1 7.9
10 無線通信機器 14,083 1.9 △ 7.2
輸入計 731,370 100 18.9

出所:韓国貿易協会

しかし、年ベースでみると好調だった半導体輸出も、月ベースでは2022年下半期から2023年上半期にかけて減少し、直近の2023年7月の半導体輸出額は前年同月比16.4%減の74億4,300万ドルとなった。世界的な需要の落ち込み、メモリー半導体の価格下落が主な要因だ。その結果、韓国の輸出総額は2022年10月から2023年7月まで10カ月連続、前年同月比でマイナスだ。実はこの期間、半導体が苦戦する一方で、着実に輸出を伸ばしている分野がある。それが自動車だ。車載半導体の供給体制が正常化したことや、ハイブリッド車・電気自動車(EV)をはじめとしたエコカー需要が欧米諸国で旺盛だったことなどで、2023年4月には輸出総額に占めるシェアで半導体に並ぶ(注3)までに至った(図1、2参照)。さらに、韓国産業通商資源部の報道資料によれば、2023年1~7月の韓国の自動車輸出額は416億ドルと、前年に比べて3カ月早く400億ドルを超えた。この勢いが続けば、2023年は過去最高の輸出額になると見込まれている。

図1:半導体・自動車の輸出金額と構成比の推移(月別)
半導体の輸出金額は、2022年6月は123億4,900万ドルとなっていたが、2023年1月には60億10万ドルと下落、2023年7月は74億4,300万ドルと、足もとでも回復はしていない。一方で、自動車は、2022年6月は39億3,400万ドルであったが、徐々に増加し2023年3月には64億9,600万ドルを達成、7月は59億40万ドルと好調を維持している。この間、輸出全体に占める構成比は、半導体が最大21.4%であったが2023年2月には11.9%まで落ち込んだ。一方の自動車は、6.8%が2023年4月には12.4%まで上昇した。

出所:韓国貿易協会

図2:輸出総額の推移(月別)
2022年6月から9月までは前年同月比で増加を続けていたが、2023年10月には前年同月比5.8%減少となり、さらに2023年1月には前年同月比16.4%減少と大幅な下落を記録。2023年7月も16.4%減少となっており10カ月連続の減少となっている。

出所:韓国貿易協会

主要企業の2023年上半期の業績は「車高電低」

2023年上半期の韓国経済は、半導体の輸出不振により停滞していた一方で、自動車が半導体に次ぐ大きな存在感を示した。では、韓国経済の具体的なプレイヤー、主要企業は同時期にどのような業績を残したのであろうか。 結論からいうと、自動車が好調で、電子・電機が不調な「車高電低」だった。つまり、既述の韓国経済、輸出と同じ様相で、この点からも韓国経済は、これら主要企業の業績に大きく左右される大企業中心の経済であることが改めてうかがえる。

以下、各主要企業の業績をレビューする(表2参照)。

まず、好調だった自動車の主要企業、現代自動車(傘下の起亜を除く)について記載する。

  • 現代自動車(傘下の起亜を除く)
    2023年第1四半期の売上高が37兆7,790億ウォン(約4兆1,557億円、1ウォン=約0.11円)(前年同期比24.7%増)、営業利益は3兆5,930億ウォン(同86.3%増)と、大幅に業績を伸ばした。第2四半期も、売上高は42兆2,500億ウォン(同17.4%増)、営業利益は4兆2,380億ウォン(同42.2%増)と好調が続いた。欧米向けのエコカー販売、高価格帯の新車需要などが要因と同社は発表している(注4)。

次に、電子・電機の主要企業として、サムスン電子、LGエレクトロニクス、SKハイニックスの2023年上半期の業績をみてみる。

  • サムスン電子
    2023年第1四半期の売上高は前年同期比18.0%減の63兆7,450億ウォン、営業利益は同95.5%減の6,400億ウォン。第2四半期も、売上高は同22.3%減の60兆55億ウォン、営業利益は同95.3%減の6,685億ウォンと、大幅に業績を落とす結果となった。世界的な需要先細りによる家電やスマホの売上高減少も要因だが、特に半導体部門の不振(第2四半期の売上高は前年同期比48%減少)が響いた(注5)。
  • LGエレクトロニクス
    2023年第1四半期の売上高は20兆4,159億ウォン(前年同期比2.6%減)、営業利益は1兆4,974億ウォン(同22.9%減)、第2四半期の売上高は19兆9,984億ウォン(同2.7%増)、営業利益は7,420億ウォン(同6.3%減)と、家電製品の売上高増加が下支えしつつも、IT製品の需要減少などによって、業績は芳しくなかった(注6)。
  • SKハイニックス
    SKグループの半導体専門企業で、前述の3社に比べて企業規模は大きくないが、サムスン電子と同様、韓国経済を支える半導体関連企業のメインプレーヤーだ。しかし、それがゆえに、2023年上半期は苦戦を強いられた。同期間を通して、主力のメモリー半導体の需要不振と製品価格の下落が続き、2023年第1四半期は売上高5兆881億ウォン(前年同期比58.1%減)、営業損失3兆4,023億ウォンと、2012年設立(注7)以来、最大の赤字額となった。SKハイニックスは2022年第4四半期に10年ぶりに赤字に転落し、2023年第1四半期に続いて、第2四半期も売上高7兆3,059ウォン(前年同期比47%減)、営業損失2兆8,821億ウォンと、赤字が続いている。
表2:韓国主要企業の業績推移(単位:10億ウォン、%)(△はマイナス値)
企業名 項目 2020年
金額
2021年
金額
2022年
金額
2023年1Q 2023年2Q
金額 前年
同期比
金額 前年
同期比
現代自動車 売上高 103,997 117,610 142,528 37,779 24.7 42,250 17.4
営業利益 2,781 6,678 9,820 3,593 86.3 4,238 42.2
サムスン電子 売上高 236,807 279,604 302,231 63,745 △18.0 60,006 △22.3
営業利益 35,993 51,633 43,377 640 △95.5 669 △95.3
LG
エレクトロニクス
売上高 63,262 74,721 83,467 20,416 △2.6 19,998 2.7
営業利益 3,195 3,863 3,551 1,497 △22.9 742 △6.3
SKハイニックス 売上高 31,900 42,998 44,622 5,088 △ 58.1 7,306 △47.0
営業利益 5,013 12,410 6,809 △ 3,402 赤字 △ 2,882 赤字

出所:各社ウェブサイト

勢いづく二次電池関連企業の業績は好調

ここまでは、韓国経済は輸出依存度が高く、その輸出を支える半導体、自動車関連企業の業績が韓国経済に大きな影響を与えるということについて、データを基に説明してきた。しかし、最近では半導体、自動車以外に韓国経済のメインプレーヤーとなりつつある産業がある。それが二次電池だ。EVやエネルギー貯蔵システム(ESS)に搭載される二次電池は、鉱物資源から成る複数の材料が組み立てられて生産される。代表的なものとして、正極材が挙げられる。正極材はリチウム、ニッケルなどの高価なレアメタル(希少金属)を使うため、二次電池の最終価格の半分近くを占め、世界的なEV販売の好調を受け、需要が拡大している。

その二次電池と正極材などの材料は、現に輸出額が大幅に増加している。代表的な二次電池のリチウムイオン蓄電池をみると、2017年から2022年までの5年間で2.1倍に大幅に伸びており、2022年に輸出金額14位につける準主役に成長した(2023年8月4日付地域・分析レポート参照)。

韓国政府も政策を強化している。詳細は割愛するが、2022年5月10日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足して以降、「輸出競争力戦略」(2022年8月31日)、「二次電池産業革新戦略」(同年11月1日)、「国家先端産業育成戦略」(2023年3月15日)などにおいて、二次電池を韓国経済や輸出の主力産業に育成、発展させていくことを掲げている。さらに、2023年7月には二次電池の「国家先端戦略産業特化団地」として、清州、浦項、セマングム、蔚山の4カ所を指定し、合計30兆ウォン以上の民間投資を呼び込むための政策支援を行うことを発表した(2023年7月28日付ビジネス短信参照)。

韓国企業もそれに応える。実際に、2023年上半期の業績にもその成果が表れている。以下では、新たな準主役となった二次電池メーカーと正極材メーカーの2023年上半期の業績について記述する(表3、表4参照)。

なお、韓国政府の二次電池に関する政策や各企業の事業概要などについては、別レポートにおいて詳細を確認いただきたい〔2023年8月4日付2023年8月7日付地域・分析レポート(前編)(後編)参照〕。

二次電池

  • LGエナジーソリューション
    LG化学から2020年に分社化して発足した韓国二次電池最大手。売上高は、2023年第1四半期8兆7,470億ウォン(前年同期比101.4%増)、第2四半期8兆7,740億ウォン(同73.0%増)と、売上高を大幅に伸ばしている。営業利益も、2四半期連続で前年同期比100%以上の増加を続けており絶好調である。
  • サムスンSDI
    サムスングループのリチウムイオン電池事業に特化した企業。売上高は、2023年第1四半期が5兆3,550億ウォン(前年同期比32.2%増)、第2四半期が5兆4,810億ウォン(同23.2%増)と順調に規模を拡大している。営業利益は黒字を確保して推移している。
  • SKオン
    SKグループの化学部門、SKイノベーションから2021年に分社した二次電池事業会社で、他の2社より後発。2023年第1四半期、第2四半期ともに売上高の規模は他の2社に比べて小さいものの、それぞれ前年同期比262.3%増、同187.0%増と、急速に規模を拡大している。後発がゆえに積極的な先行投資が重なり、営業利益は赤字が続いているが、徐々に赤字幅も縮小してきている。
表3:韓国 二次電池企業の業績推移 (単位:10億ウォン、%)(△はマイナス値)
企業名 項目 2022年
金額
2023年1Q 2023年2Q
金額 前年同期比 金額 前年同期比
LG
エナジーソリューションズ
売上高 25,599 8,747 101.4 8,774 73.0
営業利益 1,214 633 144.6 461 135.5
サムスンSDI 売上高 20,124 5,355 32.2 5,841 23.2
営業利益 1,808 375 91.7 450 4.9
SKオン 売上高 7,618 3,305 262.3 3,696 187.0
営業利益 △991 △354 赤字幅縮小 △132 赤字幅縮小

出所:各社ウェブサイト

このように程度の差はあるものの、二次電池各社の2023年上半期の業績は好調だった。政府の政策による後押しに加えて、LGエナジーソリューション、サムスンSDIの2社については米国で生産していることから、インフレ削減法(IRA)による税額控除が利益に貢献したことも要因と考えられる。

正極材

  • LG化学
    前述のLGエナジーソリューションの親会社のLG化学は、二次電池の正極材メーカーとして近年事業を拡大中。LG化学の「先端素材部門」が二次電池素材事業部門に該当するが、その業績をみると、2023年第1四半期の売上高は2兆5,610億ウォン(前年同期比63.3%増)、第2四半期は2兆2,200億ウォン(同10.0%増)と順調に拡大させている。一方で、2023年第2四半期の営業利益は前年同期比44.8%減となった。なお、これら売上高・営業利益には正極材のほか、半導体材料も含まれる。
  • エコプロ
    現時点で、EV用二次電池向け正極材メーカーでは韓国最大の企業。2023年第1四半期の売上高は2兆640億ウォン(前年同期比203.0%増)、第2四半期は2兆170億ウォン(同63.8%増)と順調に推移してきた。さらに2023年第1四半期の営業利益は前年同期比238.0%増と、大幅に業績を伸ばした。足元の営業利益はやや小幅な伸びにとどまっている状況だ。
  • ポスコフューチャーM
    旧社名はポスコケミカルで、韓国鉄鋼大手ポスコグループ傘下で正極材を生産。2023年第1四半期、第2四半期ともに売上高は1兆ウォンを超えて推移しており、前年同期比もそれぞれ70.9%増、48.6%増と大きな伸びを見せている。しかし、営業利益は両四半期とも減益となった。
表4:韓国 正極材企業の業績推移 (単位:10億ウォン、%)(△はマイナス値)
企業名 項目 2022年
金額
2023年1Q 2023年2Q
金額 前年同期比 金額 前年同期比
LG化学(先端素材部門) 売上高 部門別は非公表 2,561 63.3 2,220 10.0
営業利益 部門別は非公表 203 31.8 185 △44.8
エコプロ 売上高 5,640 2,064 203.0 2,017 63.8
営業利益 619 182 238.0 170 0.2
ポスコフューチャーM 売上高 3,302 1,135 70.9 1,193 48.6
営業利益 166 20 △23.1 52 △5.5

出所:各社ウェブサイト

二次電池メーカーと同様、正極材メーカーについても売上高の面では好調だ。世界的なEV需要拡大に伴って二次電池の生産量が増え、基幹素材である正極材も生産販売量が増えていることが、これら業績をレビューすることで改めて認識できる。しかし、収益性の面では課題が多い。正極材は原材料費比率が高く、市況の変化によって収益に大きな影響がもたらされる。今後は、原材料の価格変動に耐えうる製品開発、調達ルートの多角化が課題と言えよう。

下方修正された2023年の韓国経済見通し、本格回復は2024年か

ここからは、今後の見通しについてみていく。

2023年7月、韓国政府は「2023年下半期の経済政策方向」を発表した。その中で、2023年通年の実質GDP成長率を1.4%とし、当初予想の1.6%(注8)を下方修正したが、これは先に述べたような輸出不振による上半期の低成長が要因だとしている。一方で下半期には、上半期に大きく減少した輸出が半導体を中心に徐々に改善するだろうという前向きな見通しを示した。

また、8月には、政府系研究機関の韓国開発研究院(KDI)が「KDI経済見通し」を発表した。それによると、2023年の通年の経済見通しについては、既存の見通し(2023年5月)と同程度の成長率(1.5%)を予想している。消費の増加ペースが既存見通しに比べて鈍化するものの、建設投資や輸出の低迷が改善に向かうとみている。

それぞれのレポートでは、さらに2024年の経済成長の見通しに言及している。「2023年下半期の経済政策方向」では2024年の実質GDP成長率を2.4%、「KDI経済見通し」では2.3%と、2023年との比較では0.8~1.0ポイント、成長率が高まるとの見通しを立てている。つまり、両機関とも、2023年の下半期は当初予想に及ばないながらも緩やかに回復、2024年に本格的な回復軌道に乗るだろうと見立てている(図3参照)。しかし、聯合ニュース(2023年8月14日)がこれらの見通しについて、「中国のリオープニング効果が期待水準に届かないうえに、主要国における景気回復のペースも遅いため、下半期の反転は容易ではないとの懸念の声が出されている」と述べるなど、警戒する声も少なくない。

図3:2023~2024年 韓国経済成長の見通し
韓国政府は、2023年の成長率について、2023年7月に1.4%と設定し、前回見通しの1.6%を下方修正した。韓国開発研究院、KDIは2023年8月に1.5%と発表したが、これは前回見通しを据え置いたかたち。2024年の見通しについては、韓国政府は2.4%、KDIは2.3%と2023年よりも上向くと予想している。

注:「修正」とは韓国政府が2023年7月に、KDIが2023年8月に出した見通しの数値。
出所:韓国政府、韓国開発研究院(KDI)

主要企業は新規経営戦略、新規事業計画を相次いで発表

2023年下半期から2024年にかけて、想定どおりの成長曲線を描くためには、中国をはじめとした世界の需要先の経済が回復することを前提に、IT関連の需要増に伴う半導体などの基幹産業の回復、とりわけ輸出拡大による回復が重要だということになる。既述のとおり、そこには韓国の主要企業の業績が大きく影響するため、現状の「車高電低」の状況からいかに脱却し、新たなステージへアップデートできるかが肝となる。

最後に、このような状況において、韓国主要企業がどのような未来を描いているのか、2023年6~8月に公表された情報を基に紹介する(表5参照)。

  • 現代自動車
    2023年上半期は業績が非常に好調に推移した現代自動車だが、その成長株のエコカー、とりわけEVに大転換する戦略を2023年6月20日に発表した(注9)と、翌日付の朝鮮日報が報じた。株主、投資家、アナリストなどに向けて公開された「Hyundai Motor Way」というこの未来戦略では、2030年ごろまでに100兆ウォン以上を投じるEV転換の具体的な戦略を示した。そして、EVの海外販売台数を200万台(580万台の販売台数全体の約3分の1にあたる)にし、EV部門の営業利益率を10%までに引き上げるという具体的な数値目標を掲げた。その方法として、(1)内燃系・EV・小型車・大型車を問わず、すべてを生産できる次世代プロットフォームの開発、(2)二次電池の自主設計・管理(注10)、(3)モジュール化の拡大による効率化、という3点を掲げた。さらに8月3日付の同紙では、自動運転技術の開発に向けて、カナダの人工知能(AI)半導体スタートアップ、テンストレント(Tenstorent)(注11)に5,000万ドルを投資したという現代自動車の発表を報じた。
    現代自動車は本格的にEVへの大転換、自動運転技術の開発にかじを切った。2023年上半期の韓国経済を支えた自動車産業の展望は、この現代自動車・未来戦略の実効性が大きく影響すると言えよう。
  • サムスン電子、SKハイニックス
    2023年上半期に韓国経済の屋台骨である半導体産業が揺らいだ。サムスン電子、SKハイニックスの2社の業績がそれを如実に表すかたちになったが、この2社はどのような戦略を描いているのであろうか。
    サムスン電子もSKハイニックスも、メモリー半導体分野で世界的に大きな存在感を持つ企業だが、両社の戦略の違いを簡単に述べると、サムスン電子は「オールラウンダー化」、SKハイニックスは「メモリー特化」だ。
    サムスン電子はメモリー半導体のほか、ファウンドリー事業(システム半導体の受託製造事業)も手掛けるが、6月27日に米国シリコンバレーで開かれた「サムスン・ファウンドリー・フォーラム2023」で、2025年に2ナノ(1ナノは10億分の1メートル)工程で半導体を量産することを明らかにした(2023年6月29日付、朝鮮日報)。世界最大手の台湾・TSMCや、米国・インテル、日本・ラピダスと同等の技術水準・スピードでファウンドリー事業を成長させていく戦略を打ち出したことになる。さらに同日、次世代パワー半導体の生産開始や、後工程の技術開発に向けた協議体の立ち上げも発表するなど、まさに半導体の「オールラウンダー」を目指す戦略が見て取れる。
    対するSKハイニックスは8月下旬、世界最高仕様のメモリー半導体を開発したと発表し、世界を驚かせた。これまでサムスン電子と市場を二分しながら開発競争を繰り広げてきたHBM(注12)において、人工知能(AI)用の高性能新製品である「HBM3E」の開発に成功し、2024年上半期から量産を開始することを発表した(注12)。2023年8月21日付の毎日経済は、サムスン電子も同等仕様のHBMを2023年下半期に発売する予定だと報じており、競争がさらに激化することが予想されるが、現時点ではこのメモリー半導体・HBM開発においてSKハイニックスが一歩先を行くこととなった。現時点で、SKハイニックスに関する他の新規事業や新規戦略が目立って出ていないことを考えると、不況が長引くメモリー半導体分野において高付加価値製品を軸に、同社はあえて「メモリー特化」の道を選択したと言えるのかもしれない。
    世界の半導体市場を担うこの2社の戦略の違いが、韓国経済の屋台骨を支える両軸となるのか、それともどちらかに偏っていくのか、今後の動向に注目が集まる。
  • LGエレクトロニクス
    2023年上半期は、特にIT需要の縮小によるパソコンやディスプレイ、テレビなどのデジタル製品の不調により、苦境を強いられた。そのLGエレクトロニクスは2023年7月12日、「家電のグローバルリーダー」から「スマートライフソリューション企業」に飛躍するというビジョンを発表した(2023年7月12日付、聯合ニュース)。ここでは、2030年の成長率・営業利益率7%以上および企業価値7倍以上の成長、売上高100兆ウォン以上(2022年は65兆ウォン)を達成するために、(1)非ハードウェアビジネスモデルの改革、(2)BtoB領域の成長、(3)新事業の発掘と育成を3大新成長エンジンとして掲げ、2030年までに50兆ウォン以上の投資(注14)をするというビジョンを示した。このうち、(3)では、具体的にデジタルヘルスケア、EV充電、メタバースを未来新事業として例示しており、米国の遠隔医療会社や北米イノベーションセンター(NAIC)などの他企業・他機関との外部連携のほか、ジョイントベンチャーやM&Aを通じて幅広く戦略的協力関係を構築していく方針だ。グローバルな家電ブランドとして世界的地位を確立したLGエレクトロニクスは、これまでの経験と英知、資源などを全投入し、さらに外部リソースを巻き込みながら、次のステージへの飛躍を目指している。
表5:韓国主要企業 今後の新規事業・新戦略
企業名 2023年上半期の業況 新規事業・新戦略(2023年6~8月発表)
現代自動車 エコカー、高価格帯の新車需要増により非常に好調
  • EVへの大転換を加速
  • AIを活用した自動運転技術の開発
サムスン電子 半導体(メモリー、ファウンドリー)の不振により悪化
  • 世界最高水準のファウンドリー事業への成長
  • メモリー、ファウンドリーに加えてパワー半導体や後工程を含めた「オールラウンダー」
SKハイニックス メモリー半導体不振により過去最大の赤字を記録するなど悪化
  • 「HBM3E」の開発に世界初で成功、量産開始
  • 高付加価値製品を軸に「メモリー特化」
LG
エレクトロニクス
家電やBtoBが好調であったが、IT製品の不振によりやや悪化
  • 家電メーカーから「スマートライフソリューション企業」へ飛躍
  • 外部連携による新事業発掘・育成

出所:報道資料、各社ウェブサイトなどからジェトロ作成


注1:
韓国の輸出依存度は、2021年の統計で35.6%と主要国の中では高水準。同年の米国は7.6%、日本は15.0%、中国は19.0%。輸出依存度は、GDPに占める輸出額の割合により算出。
注2:
2023年4月28日付2023年7月28日付ビジネス短信参照
注3:
輸出総額に占める半導体および自動車のシェアの推移。
  • 半導体:2022年6月(21.4%)→2023年4月(12.9%)→同年7月(14.8%)
  • 自動車:2022年6月(6.8%)→2023年4月(12.4%)→同年7月(11.7%)
注4:
2023年4月27日付2023年8月2日付ビジネス短信参照
注5:
2023年5月1日付2023年7月28日付ビジネス短信参照
注6:
2023年5月9日付2023年8月2日付ビジネス短信参照
注7:
SKテレコムが2011年に世界的なメモリー半導体メーカーだったハイニックスを買収、2012年に社名をSKハイニックスと変更。
注8:
2022年12月21日に企画財政部が公表した「2023年経済政策方向」で2023年の経済成長率を1.6%と予測(2022年12月28日付ビジネス短信参照2023年7月12日付ビジネス短信参照)。
注9:
現代自動車は、EV事業の中長期戦略を2023年4月11日に発表。当戦略において、具体的な生産計画も提示している(2023年8月7日付地域・分析レポート参照)。
注10:
従来、二次電池の設計は二次電池メーカーが担っていたが、値上がりリスクやサプライチェーン不安を解消するために自社で設計し生産する体制を目指している。EV世界首位の米国・テスラは自社で設計、さらに量産する段階にまで進んでいる。
注11:
カナダ・トロントのスタートアップで、半導体設計分野の伝説的人物と称されるジム・ケラー氏がCEOを務める。同氏はiPhoneのチップの設計や、米国・テスラの自動運転用半導体設計をリードした経験がある。
注12:
複数のDRAMを垂直連結した高帯域幅メモリーの総称のこと。
注13:
2023年8月28日付ビジネス短信参照
注14:
内訳は、研究開発に25兆ウォン以上、設備投資に17兆ウォン以上、戦略投資に7兆ウォンとしている。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
橋爪 直輝(はしづめ なおき)
2023年4月、経済産業省からジェトロ・ソウル事務所に出向。経済調査チーム所属。