特集:総点検!アジアの非関税措置半数の企業が影響受けるも、政府を挙げて改善に取り組む(ラオス)

2019年3月15日

ラオスは、周辺国に比べ低廉な賃金や電気代などを背景に、特に隣接するタイや中国からの生産移管による日系製造業の進出が徐々に増えている。実際に、ビエンチャン日本人商工会議所の会員企業数も2013年の56社から2019年1月には101社まで増加している。また、近年では5カ国と国境を接する内陸国であることから、インドシナ地域の物流拠点としての評価も高まっている。一方、当地でビジネスをする中で、いまだビジネス環境の整備が十分とは言えず、多くの企業がビジネスを阻害する非関税措置の影響を感じている。

半数の企業が非関税措置の影響を感じている調査結果に

2018年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査によると、「ビジネスを阻害する非関税措置」として影響があると回答したラオスの進出日系企業は24社中12社で、50%の企業が影響を受けているとしている。ASEAN諸国では、インドネシア(64.9%)、ミャンマー(53.3%)に次ぐ高い結果となった。回答企業24社のうち14社が製造業、10社が非製造業だったが、影響があると回答した企業はそれぞれ7社、5社で、製造、非製造ともに50%となった(表参照)。

表:ラオス進出日系企業の回答したビジネスを阻害する非関税措置(-は値なし)
ビジネスを阻害する非関税措置 全 体 製造業 非製造業
全体 24 14 10
輸出制限(未加工資源の輸出禁止、輸出税など) 6 4 2
輸入制限(輸入者登録義務、輸入ライセンス制度、数量規制、輸入課徴金など) 6 3 3
現地調達(ローカルコンテント)要求、国産品優先補助金など 4 2 2
特恵関税利用時の原産地証明書の否認 3 2 1
基準・認証制度(強制規格など) 2 1 1
外資規制(サービス貿易の阻害) 2 - 2
セーフガード、アンチダンピング課税 1 1 -
その他 1 - 1
特に問題なし 12 7 5

注:影響がある項目は複数回答、特に問題なしの場合は他の項目選択不可。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

影響があるとの回答が多かった項目は、「輸出制限」(6社)、「輸入制限」(6社)、「現地調達(ローカルコンテント)要求など」(4社)となった。

「輸出制限」として、ラオスでは木材関係や、コメ、鉱物・鉱物製品において輸出許可が必要なことが挙げられる。中でも、木材関係の輸出に関しては、「木材伐採、木材輸送、木材ビジネスの管理と監督の厳格化に関する首相命令第15号(2016年5月13日付)」により、あらゆる半加工・未加工木材の輸出を禁止するという強い措置が取られている。また、加工木製品についても、「輸出可能・輸出禁止木材製品リストの承認に関する商工大臣合意(改正)第0002号(2018年1月3日付)」が発出され、規定の用途・サイズを超える加工木製品の輸出は規制対象となっている。現在、日本向けではフローリング材や家具、白炭などが輸出されているが、規制当初は輸出不可品目と可能品目の告示にタイムラグがあり、ほとんどの輸出が止まるなど混乱があったようだ。

「輸入制限」としては、医薬品・伝統医薬品・化粧品、食品・加工食品、農薬、農産物、水産物、家畜といった分野で、各管轄省庁への許可申請が必要となっていることが挙げられる。また、後述する「年次輸入計画書(マスターリスト)」の規定の厳格さも、進出日系企業のビジネスに影響を与えているようだ。

「現地調達(ローカルコンテント)要求」については、マスターリストの免税対象となる原材料について、国内調達できるものであれば、免税対象外となることが挙げられる。

マスターリスト改正へ草案を公開

タイプラスワンなどで低廉な賃金を求め、近隣諸国からの生産移管が進むラオスでは、原材料を輸入し、ラオス国内で製品化し100%輸出する企業の進出が多くみられる。多くの進出日系企業が課題として挙げているマスターリストとは、加工輸出企業が輸入時の付加価値税(VAT)の免税措置を受けるために、提出が義務付けられている年間の輸入計画書である。2018年は、商工局で輸入計画の承認を得た後、計画投資省を経て財務省で免税許可を取得していた。

このマスターリストは、「投資奨励政策における関税および税の優遇に関する財務大臣令第3578号(2012年12月9日付)」により、運用ルールが規定されている(参考参照)。

参考:マスターリストの運用ルールのポイント

  1. 有効期間は1年間(プロジェクトの場合は実施計画書が定める期間)。
  2. 年間輸入額は、登録資本金額を超えてはいけない。
  3. 有効期間が満了した時、リストに記載されている製品のうち、まだ輸入されていないものについては免税対象外となる。
  4. マスターリストは、一度承認されたら許可なく変更してはならない。ただし、企業が増資あるいは減資した場合は、年に1回までの修正であれば可能。
  5. リストに記載のない製品の輸入や交換部品の緊急輸入については、3万ドルを超えない場合、関連当局の承認の下で年に2回まで可能。3万ドルを超える場合には個別に検討される。

出所:「投資奨励政策における関税および税の優遇に関する財務大臣令第3578号(2012年12月9日付)」よりジェトロ作成

これらの運用において、進出日系企業に大きな課題となっているのが、ルール2、4、5である。この3つの規定により、年間の輸入額が規制され、また、年次途中の変更に対応できないという問題がある。ラオスには、汎用品向けの製造業だけでなく、小ロットで多品種の受注生産を行う製造業も進出している。ラオスで受注生産をおこなう縫製業担当者は「年初に見込んでいなかった仕事が入る際に、マスターリストの変更に上限があると仕事が受けにくい」と話す。また、「最初の申請時の承認に時間がかかるのも問題である」とも指摘する。

他方、マスターリストの課題については、日ラオス官民合同対話で長く議論されており、一定の成果が出ている。2018年10月にはマスターリストのルール改善に関する草案が公開され、2019年中には、同草案が正式に発布される予定だ。同草案には改正後、ルール2の年間輸入額の上限規定が撤廃され、4、5については「マスターリストの追加は実際に必要な額と量とする」とされ、明記されていなかった認可窓口も、投資奨励局長もしく都・県計画投資局長と明記された。

また、ラオスでは日系企業の主な進出先として、北部にある首都ビエンチャン、中部のサワナケート、南部のパクセーがあり、各都市に日系企業が多く集積する経済特区(SEZ)が存在する。SEZへの進出企業は税制優遇などのメリットがあるものの、首都から離れているためにビジネス上の手続きで煩雑さを感じることもあるようだ。例えば南部パクセーでは、原産地証明書の申請を首都ビエンチャンでないと受け付けないことが課題となっている。実際に、南部パクセーに進出している企業は、ビエンチャンで代理人を雇用し、郵送で代理人に申請書を送って、代理人が申請する方法をとっているという。進出地域で申請ができる場合と比べて、時間もコストもかかる。他方、この課題についても、進出企業担当者は「SEZ内での認可ができるよう、現在SEZの職員が研修を受けているようだ」と話す。

ラオスでは、世界銀行が毎年発表しているビジネス環境ランキング「Doing Business」の順位(2019年は190カ国中154位)の大幅な向上を目指すよう、首相命令が発布されるなど、ビジネス環境の整備に注力している。近年では、官民合同対話による課題の改善や、法律・制度の新設・改正が進んでおり、今後、より一層の環境改善が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
南原 将志(なんばら しょうじ)
2014年、香川県庁入庁。2018年より現職。