TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド愛知発!ケニアのパートナーとの連携で市場拡大を目指す

2019年7月31日

トヨトミは、第二次世界大戦後間もない1949年に設立され、TICAD7が開催される2019年に創立70周年を迎える。主力製品の石油ポータブルストーブは、国内市場で約40%のシェアを持ち、海外も北米、欧州、中南米、中東など世界各国に積極的に展開している。アフリカに目を向け始めたのは、2007年。10年以上をかけ、対象国やアプローチを徐々に変えながら、粘り強く着実に、アフリカビジネスを前に進めている。これまでのアフリカでの取り組みと今後の狙いについて、同社貿易部貿易課の石川卓斉氏、片岡僚氏に聞いた(6月21日)。

環境と体に優しいストーブで世界へ

質問:
海外ビジネスへの取り組みと自社製品の強みは。
答え:
輸出は創業後約10年で開始しており、1983年には米国に子会社を設立した。現在は年商約120億円のうち海外は約50億円で、約40%を占める。海外の主要な販売先としては、米国、欧州、韓国など東アジア、チリ、イラク。サウジアラビアともコンスタントに取引がある。東南アジアにも輸出した経験があるが、コピー商品が出回り、苦戦した。イラクやサウジアラビアなど一部は商社経由だが、他国向けには直接輸出している。
世界保健機関(WHO)のレポートによると、まきを調理などで使うことで、世界で約400万人が呼吸器疾患で苦しんでいるという。これはマラリアの患者よりも多い。その点、当社のストーブは排ガスがクリーンで、体に無害。日本国内の工場で内製しており、特に燃焼品質に優れていると自負している。

欧州の取引先をきっかけにアフリカに着目

質問:
アフリカとのきっかけは。
答え:
取引先のオランダ企業を通して、フランスなど欧州向けに販売していたところ、同社が南アフリカ共和国(以下、南ア)にもネットワークがあり、2007年に南ア向けのビジネスを提案してきたのがきっかけ。早速、同年に南アを訪問して現地調査したが、当時は取引に至らなかった。その後2010年ごろ、アフリカなどの途上国をイメージした簡素化したストーブを開発し、改めて取り組みを強化した。
質問:
アフリカ向け輸出の成約は。
答え:
2012年ごろ、来日経験のあるナイジェリアの地場輸入者から引き合いがあり、支払い条件なども合意して成約した。その後の約3年間で累計約2,700台をナイジェリア向けに販売した。主に、中間所得層がターゲットとなった。しかし現大統領の就任後、外貨不足だったためか輸入にシビアになり、現地での価格値上げなども行わざるを得なくなり、ビジネス継続が困難となり、現在、輸出はストップしている。情勢が変われば、再開したい。
質問:
アフリカとのビジネスを通して感じた課題は。
答え:
アフリカの市場は大きいとみているが、必ずしも人口の大きさイコール可能性があるのではなく、まだ経済レベルは概して低いと感じる。当社は輸出の際、支払い条件としてL/C(信用状)か前金を求めるが、アフリカの多くの輸入者は資金が潤沢ではないようで、条件が合わない。前述のナイジェリアの輸入者は条件が合致したケース。
また当社製品に関して言えば、アフリカに限らないが、灯油の質が悪いとストーブの点火に支障が生じる。灯油の質が悪くても使えるような製品を開発したい。

ケニアの現地パートナーと連携し現地生産を目指す

質問:
現在取り組まれているケニアでの状況や今後の方向性は。
答え:
ケニアには2013年のジェトロ派遣ミッションに参加し、現地でのモニタリング調査やアンテナショップなども活用しながら、継続的に取り組んでいる。ケニアにはすでに中国、インド、ケニア製の灯油ストーブが流通しており、そうした製品への消費者のイメージは悪かったようだ。当社製品をケニアの家庭で使ってもらったところ、性能の良さに大変驚かれた。すすが少なく臭いがしないと、評価された。また、すすで壁が汚れることも無くなり、それまでは年2回は必要だった壁の塗り直しが不要になった。火力も他製品より強く、調理時間が少なくて済む。点火と消火にかかる時間も短く、安全性も高い。

ケニアの家庭で使用されるトヨトミのストーブ
(トヨトミ提供)
しかし価格が最大の課題で、ケニア向けの販売は2018年で約500台にとどまっている。当社製品は約7,000ケニア・シリング(約7,700円、Ksh、1Ksh=約1.1円)だったが、地元からは製品の質はいいが、価格が高くて買えない、との声が聞かれた。そこで、現地の農協組合を使って、ローン販売を展開し始めた。地元の農協や、ガソリンスタンドを通した販売にも取り組んでいる。一方で、中国、インド、ケニア製は800~1,500Kshで販売されている。
そのほか、使用者から指摘されたこととして、灯油は量り売りで少しずつ買うので、タンクの容量はもっと少なくて十分とのことだった。これは実際に使ってもらって、初めて気付いたことだ。
今後の取り組みとして、価格の問題を解決するため、地場の同業他社と連携し、現地生産により価格引き下げを目指すことにした。2019年2月に先方と協力覚書(MOU)を結んだところで、これから連携を本格化させる。ケニアの連携先は8月末のTICAD7に合わせて来日することも計画している。今後の課題解決に向けて、前向きに取り組みたい。

編集後記:現地パートナーとの連携強化で新たな可能性を探る

同社が初めてアフリカを訪問してから10年以上、さまざまな課題に直面しながらも、粘り強くアフリカビジネスに取り組んできた。環境や健康への配慮など、アフリカで貢献しうる製品を展開できるのが強みだ。それはTICAD7やSDGsの方向性にも合致するだろう。今後は現地パートナーとの連携で、今までより踏み込んだ新たな可能性を模索している。製造業の振興は現地政府の目指すところでもあり、日本のモノづくりの技術を生かしながら、現地でのプレゼンスを高めることに期待したい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査(アフリカ担当)
小松﨑 宏之(こまつざき ひろし)
1997年アジア経済研究所(当時)入所、総務部、研究企画部。1999年ジェトロ企画部へ異動。その後、貿易開発部、国際機関太平洋諸島センター出向、展示事業部、ジェトロ高知所長、ジェトロ・ナイロビ事務所長、ジェトロ大阪本部を経て、現在に至る(アフリカ担当)。

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