特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の現状と今後経済回復も、日系企業の景況感がやや低下(オーストラリア)

2023年4月25日

ジェトロは2022年8~9月、「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、本調査)を実施した。オーストラリアでは、現地に所在する日系企業298社に回答を依頼。128社が回答した(有効回答率43.0%)。調査結果をもとに、最新の進出企業動向を報告する。

2022年の営業利益見込みを尋ねたところ(回答企業126社)、黒字と回答した企業は81.8%。国・地域別では、調査対象地域の中で2番目に高かった。景況感は、2021年と比較すると若干悪化した。オーストラリアの市場成長性をビジネス環境のメリットと評価している企業が約半数あった。その一方で、人件費や調達コストの上昇をデメリットとする企業が6割を超えた。

約8割の企業が営業黒字見込み、アジア・オセアニア地域でトップクラス

2022年(1月~12月)の営業利益見込み(単一回答)を「黒字」と回答した企業は、81.8%だった(図1参照)。調査対象のアジア・オセアニア計20カ国・地域の中で、韓国(85.5%)に続き2番目に高かった。製造・非製造の別にみると、「黒字」と回答した割合は、製造業が82.8%、非製造業が81.4%。大きな違いは見られなかった。

図1:2022年の営業利益見込み(単一回答)
調査回答企業総数のうち(有効回答企業数4155)、2022年の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の比率は65.5%、「均衡」と回答した企業は18.0%、「赤字」と回答した企業は16.4%。ASEANでは(有効回答企業数2350)、「黒字」と回答した企業の比率は63.5%、「均衡」と回答した企業は18.9%、「赤字」と回答した企業は17.7%。オーストラリアでは(有効回答企業数126)、「黒字」と回答した企業の比率は81.8%、「均衡」と回答した企業は7.9%、「赤字」と回答した企業は10.3%。

出所:ジェトロ「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

経済が回復しながらも、今後の利益見通しは横ばい

2022年の景況感を示すDI値(注1)は、20.6ポイント(表1参照)。前年調査の23.5ポイントからやや低下した。確かに、新型コロナ禍がもたらした経済停滞からは、回復傾向にある。しかし、回復が進んだ副作用、また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で石油・石油製品、消費財、資本財など輸入価格上昇、輸送コスト上昇などのコスト上昇が進展。なおも、マイナス要因が継続している。その結果、「悪化」と回答した企業の割合が前年調査と比較してやや増加した。

2022年の営業利益見込みが改善する理由(複数回答)としては、「新型コロナに起因する反動増」(26.8%)、「輸出価格(単価)の引き上げによる売り上げ増加」(26.8%)が最も多かった。これに、「新型コロナに起因する行動制限緩和の影響」(25.0%)が続く。背景には、(1)オーストラリア経済が2021年第4四半期(10~12月)以降、新型コロナパンデミックの影響による景気後退から回復した(2022年も国内消費や輸出が好調。3四半期連続で経済がプラス成長した)、(2)ロシアからの供給減少などから、石炭をはじめとして資源価格が上昇した(当地エネルギー輸出企業にとって、プラスに働いた)、などの要因があると考えられる。

また、2023年の営業利益見込み(単一回答)は、「改善」すると回答した企業が37.4%だった。2022年と比較して7.8ポイント減少した。また、「横ばい」と回答した企業が最も多く44.7%だった。この回答比率が跳ね上がったのが、当年度調査ならではの特徴ともいえるかもしれない。この結果には、2023年の経済の見通しに不確実性が高まる情勢(注2)も影響しているとみられる。

表1:営業利益見込み(前年との比較)とDI値の推移(2018~2023年)(△はマイナス値)
DI値 改善 横ばい 悪化
2023年 19.5 37.4 44.7 17.9
2022年 20.6 45.2 30.2 24.6
2021年 23.5 47.1 29.3 23.6
2020年 △ 32.3 19.9 27.9 52.2
2019年 0.6 32.5 35.6 31.9
2018年 27.4 44.5 38.4 17.1

注:2023年の見込みについて、2022年度調査で回答者が見通しを示した数値。
出所:ジェトロ「2018~2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

市場の成長や社会経済の安定性などを評価、人件費など懸念材料も

ビジネス環境上のメリット(複数回答)についての設問(回答企業94社)では、「市場の成長性」(55.3%)を挙げる企業が最も多かった。「政治・社会情勢」(52.1%)、「駐在員の生活環境」(48.9%)が続いた(表2参照)。「市場の成長性」は、新型コロナのパンデミックに先立つ2019年まで、28年間連続で経済成長を続けていたことにも裏打ちされていると考えられる。加えて、国内人口が依然として増加していることもあるだろう。ちなみに、現在の総人口は約2,597万人(2021年国勢調査、2022年6月時点)。海外からの移民流入により、過去50年間で約2倍に増加した(2022年7月27日付ビジネス短信参照)。オーストラリア統計局(ABS)は、2033年までに3,014~3,226万人規模へ、2063年までに3,686~4,754万人規模へ増加すると予測しており、今後の人口増加による内需拡大で市場の成長性が見込まれる。

表2:ビジネス環境上のメリット(経営に良い影響がある)(上位5項目、複数回答)(単位:%)
順位 回答項目 回答率
1 市場の成長性 55.3
2 政治・社会情勢 52.1
3 駐在員の生活環境 48.9
4 言語・コミュニケーションの容易さ 45.7
5 現在の市場規模 43.6

出所:ジェトロ「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

一方で、進出日系企業が抱える経営上の問題として上位に挙がったのは、「従業員の賃金上昇」(75.0%)、「調達コストの上昇」(64.8%)、「為替変動」(60.2%)などだ(表3参照)。

オーストラリアの最低賃金(2021年)は、OECDの発表によると、世界主要国との比較で上から2番目に高い。2022年7月からはさらに、最低賃金が時給21.38オーストラリア・ドル(約1,903円、豪ドル、1豪ドル=約89円)に引き上げられた。

調達コストについては、当地でもインフレが加速したことが影響。原料費、ガスなどのエネルギー費、輸送費などが上昇し、コスト増が企業経営に影響を与えている(2022年11月15日付ビジネス短信参照)。

また、為替レートも懸念材料だ。オーストラリアからの輸出を品目別にみると、コモディティ(鉄鉱石、天然ガス、農産品)の割合が大きい。そのため、豪ドルはコモディティ価格の変動に大きな影響を受けることになる。その結果、為替相場が急変する可能性もあるため、不確実性が増すことは、企業のビジネス環境に負の影響を及ぼす。

表3:オーストラリアでの経営上の問題点(複数回答、上位5項目)(単位:%)
順位 回答項目 回答率
1 従業員の賃金上昇 75.0
2 調達コストの上昇 64.8
3 為替変動 60.2
4 競合相手の台頭(コスト・価格面で競合) 47.3
5 物流の混乱 44.0

出所:ジェトロ「2022年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

今後の事業展開の方向性について、約半数が現状維持

今後1~2年の事業展開の方向性(単一回答)についての設問(回答企業128社)では、「拡大」と回答した企業が42.2%、「現状維持」が53.9%、「縮小」が3.1%だった。当面、「現状維持」の方針と回答する企業が最も多く、半数を占めた。同時に、事業を「拡大」すると答えた企業も多く4割に上ったことも注目に値する。

今後1~2年で事業を「拡大」する理由(複数回答)としては、「成長性、潜在力の高さ」(46.3%)を選ぶ企業が最も多かった。次いで、「競合他社と比較した際の優位性の確立」(38.9%)、「高付加価値製品・サービスへの高い需要性」(29.6%)が挙がった。市場が成長し所得水準も高い当地では、高付加価値製品・サービスに対する需要も見込める。進出日系企業は、そうした需要に着目していることがうかがえる。

脱炭素に向け、約8割の企業が取り組みを実施または予定

次に、在オーストラリア日系企業の脱炭素の取り組みについてみる。回答企業117社の約5割(47.9%)が、脱炭素に向けた取り組みを実施済みとした。また、約3割(32.5%)の企業が脱炭素化に今後取り組む予定とした。

脱炭素取り組み実施済みの回答比率は、アジア・オセアニア20カ国・地域の中で6番目に高い〔1位はパキスタン(54.3%)、2位ニュージーランド(52.3%)〕。地域全体の平均(37.1%)を10ポイント超上回った。

図2:進出先で何らかの脱炭素化に取り組んでいる、
もしくは取り組む予定があるか(単一回答)
調査回答企業総数のうち(有効回答企業数3783)、進出先で何らかの脱炭素化について「既に取り組んでいる」と回答した企業の比率は37.1%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業は34.6%、「取り組む予定はない」と回答した企業は28.3%。ASEANでは(有効回答企業数2350)、「既に取り組んでいる」と回答した企業の比率は35.9%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業は35.5%、「取り組む予定はない」と回答した企業28.6%。オーストラリアでは(有効回答企業数126)、「既に取り組んでいる」と回答した企業の比率は47.9%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業は32.5%、「取り組む予定はない」と回答した企業は19.7%。

出所:ジェトロ「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

では、具体的にはどのような取り組みを進めているのか。尋ねたところ、91社から回答があった(複数回答)。

まず、自社に直接または間接的にかかわる排出(Scope1&2、注3)について、最多だったのは「省エネ・省資源化」(53.9%)。続いて「再エネ・新エネ電力の調達」(46.2%)、「エネルギー源の電力化」(30.8%)だった(図3参照)。

特に製造業では、回答企業の6割(62.5%)が「再エネ・新エネ電力の調達」を実施しているとした。

図3:脱炭素化のための具体的な取り組み(Scope 1&2)(検討中含む)
※複数回答
「省エネ・省資源化」と回答した企業の比率は全体(有効回答企業数91)で53.9%、製造業(有効回答企業数16)で56.3%、非製造業(有効回答企業数75)で53.3%。「再エネ・新エネ(太陽光、風力、水素など)電力の調達」と回答した企業の比率は全体で46.2%、製造業で62.5%、非製造業で42.7%。「エネルギー源(熱、輸送燃料など)の電力化(建物電化、EV導入など)」と回答した企業の比率は全体30.8%、製造業で18.8%、非製造業で33.3%。「市場からの排出削減のクレジット購入」と回答した企業の比率は全体13.2%、製造業で25.0%、非製造業で10.7%。「その他(Scope1&2)」と回答した企業の比率は全体8.8%、製造業で6.3%、非製造業で9.3%。

注:進出先で「何らかの脱炭素化に取り組んでいる」、または「検討中」と回答した企業が対象。
出所:ジェトロ「2022年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

また、自社のサプライチェーンにかかわる排出(Scope3、注3)に対する取り組みでは、「環境に配慮した新製品の開発」(30.8%)、「調達・出荷の際の物流の見直し」(20.9%)「グリーン調達(調達先企業への脱炭素化の要請)」(18.7%)の順になった(図4参照)。製造・非製造の別で、大きな違いはなかった。

図4:脱炭素化のための具体的な取り組み(Scope 3)(検討中含む)
※複数回答
「グリーン調達(調達先企業への脱炭素化の要請)」と回答した企業の比率は全体(有効回答企業数91)で18.7%、製造業(有効回答企業数16)で18.7%、非製造業(有効回答企業数75)で18.7%。「環境に配慮した新製品の開発」と回答した企業の比率は全体で30.8%、製造業で25.0%、非製造業で32.0%。「調達・出荷の際の物流の見直し(低炭素排出車の利用など)」と回答した企業の比率は全体20.9%、製造業で18.8%、非製造業で21.3%。「その他(Scope3)」と回答した企業の比率は全体4.4%、製造業で0.0%、非製造業で5.3%。

注:進出先で「何らかの脱炭素化に取り組んでいる」、または「検討中」と回答した企業が対象。
出所:ジェトロ「2022年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」

水素製造や重要鉱物資源にも注目

オーストラリアでは近年、脱炭素化に向けた取り組みに関連して、水素に注目が集まっている。

連邦政府は、世界的な水素大国となることを目指しており、モリソン前政権(自由党および国民党の保守連合)は2019年11月、「国家水素戦略」を策定。2030年までに「クリーンで革新的で競争力があり安全な水素産業」を創出し、2040年までに水素輸出額を100億ドルとすることがねらいだ。政権はその後、2022年5月に労働党に交代。アルバニージー首相率いる新政権は、再生可能エネルギー(再エネ)の普及をいっそう推進する方針だ。2022年10月に発表された新政権として初めての連邦政府予算案では、グリーン水素拠点設立に関連した施策も盛り込まれた(2022年12月2日付ビジネス短信参照)。

また各州政府も、独自に水素戦略を策定している。

このような政府の動き以外にも、後押し要因がある。

オーストラリアには、石炭・天然ガスといった資源に加え、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)に適した場所が多く存在する。また、太陽光や風力などにも適した自然環境を擁する。ということは、ブルー水素とグリーン水素(注4)の両方の製造に適している。同様の条件を持つ地域としては、ほかに中東などがある。ただしオーストラリアは、そうした地域と比較してカントリーリスクが低く安定し、日本から地理的に近接しており、対日輸出を想定したメリットも認められる。

この結果、日本企業が関わる水素実証プロジェクトが年々増加している。今後はさらに、水素エネルギーサプライチェーンプロジェクト(HESC、2022年1月24日付ビジネス短信参照)のように、日本企業の持つ高い技術を活用した日豪連携の脱炭素案件が増加していくことが期待される。

このほか、電気自動車(EV)や蓄電池の材料に欠かせない重要鉱物で、オーストラリアは世界有数の生産・埋蔵量を誇る。連邦政府の発表によると、例えばリチウムは、生産量で世界1位、埋蔵量で2位。ニッケルも、生産量世界5位、埋蔵量1位だ(注5)。重要鉱物のサプライチェーン確保に向け、日豪両国の取り組み加速も期待される。


注1:
ここで言う「DI値」は、前年と比較し営業利益見込みが「改善」すると回答した企業の割合から、「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値。
注2:
例えば、(1)ロシアのウクライナ侵攻、(2)中国での新型コロナ感染再拡大(調査時点)による世界経済への影響、(3)オーストラリア国内で発生した予測できない自然災害(山火事、洪水)などの要因が影響した可能性がある。
注3:
温室効果ガス(GHG)の排出には、Scope1~3の3段階がある。その説明については、環境省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
注4:
グリーン水素は、風力や太陽光など再エネを用いて製造する。そのため、そもそもCO2を排出しない。
なお、グリーン水素と並んで環境負荷が低いとされるのが、ブルー水素だ。ブルー水素は、化石燃料を用いて製造する。しかし、二酸化炭素(CO2)回収貯蔵(CCS)技術によって、実質的にCO2排出量がほぼない。
注5:
オーストラリアの鉱物資源の詳細は、オーストラリア連邦政府ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
青島 春枝(あおしま はるえ)
2022年6月からジェトロ・シドニー事務所勤務(経済産業省より出向) 。