特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の現状と今後ミャンマー進出日系企業、厳しい事業環境下も約6割は縮小・撤退せず

2023年3月20日

2021年2月1日の国軍による権力掌握(以下、政変)から、2年が経過した。政変による国内情勢の混乱と、新型コロナウイルスの感染拡大も相まって、各国際機関が発表した2021年度の経済成長率は大幅なマイナス成長となるなど、ミャンマー経済は大きく落ち込んだ。さらに、政変以降、急激に進行した対ドルのチャット安への対応および外貨流出の抑制を目的に、様々な金融・貿易規制が行われ、現地に進出している日系企業のビジネス環境は大きく変化、厳しい事業運営を強いられている。

このような状況の下、進出日系企業にどのような影響が生じているのであろうか。また、ビジネスを取り巻く現状及び今後の事業方針についてどのように考えているのであろうか。ジェトロが実施した「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、日系企業調査)の調査結果を基に検証する。

様々な金融・貿易規制に伴う厳しいビジネス環境

ミャンマーでは、新型コロナの感染拡大の影響による観光客の減少や出稼ぎ労働者からの送金減少に加え、政変以降、諸外国や国際機関からの援助停止、外国企業による新規投資の低迷により、国内経済が大きく停滞し、国内の外貨不足が深刻な状況に陥っている。

これに対応するため、外貨からチャットへの両替義務付けや、輸出代金の早期入金義務付け、国内取引でのチャットの使用義務付け、国外外貨送金の許可などの各種金融規制措置を導入している。また、輸入時の輸入ライセンス取得を義務付ける規制や輸入ライセンスの有効期間短縮なども行っており、実質的に輸入をコントロールして外貨の流出を抑制する措置を打ち出している。また、為替については、政変以降チャット安が急激に進行。政変前の2020年は1ドル=1,382チャット(期中平均)であったのに対し、2023年2月現在では中央銀行が参考レートを1ドル=2,100チャットに固定している(注)。

2021/2022年度の経済成長率、2%のプラス成長見通し

国際通貨基金(IMF)は2022年10月に、2021/2022年度(2021年10月~2022年9月)のミャンマーの実質GDP成長率を前年度比2.0%と予測している。新型コロナの感染拡大および政変などの影響を大きく受け、マイナス17.9%と大きく低迷した前年度から改善し、プラスに転じるものの、引き続きミャンマー経済は厳しい情勢が続く見通しと分析している。なお、2022/2023年度の実質GDP成長率は3.3%とする見通しとなっている。

進出日系企業の営業利益見通し、景況感は前年度に続き低迷

ジェトロが実施した2022年度日系企業調査によると、2022年の営業利益見込みを「赤字」と回答する企業の比率は、前年の72.1%から46.0%に減少しているものの、アジア・オセアニア地域の調査対象20カ国・地域では最も高い赤字割合となった(図1参照)。また、2022年の営業利益見込みについて、37.9%の企業が前年より「悪化する」と回答した(図2参照)。

図1:2022年の営業利益見込み(単位:%)
ミャンマー(有効回答企業数87)において、2022年の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の比率は31.0%、「均衡」と回答した企業は23.0%、「赤字」と回答した企業46.0%。

注:カッコ内は有効回答企業数。
出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

図2:2021年と比較した2022年の営業利益見込み(単位:%)
ミャンマー(有効回答企業数87)において、2021年と比較した2022年の営業利益見込みを「改善」と回答した企業の比率は26.4%%、「均衡」と回答した企業は35.6%、「赤字」と回答した企業37.9%。

注:カッコ内は有効回答企業数。
出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

2023年の営業利益見通しについて、「改善する」と回答した企業の割合は22.1%で、アジア・オセアニア地域の平均43.3%と比べて低かった。一方、「悪化する」と回答した企業の割合32.6%は調査対象国・地域で最も高い割合となった(図3参照)。

図3:2022年と比較した2023年の営業利益見通し(単位:%)
ミャンマー(有効回答企業数86)において、2022年と比較した2023年の営業利益見通しを「改善」と回答した企業の比率は22.1%%、「均衡」と回答した企業は45.4%、「赤字」と回答した企業32.6%。

注:カッコ内は有効回答企業数。
出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

2022年と2023年の営業利益見通しを「悪化する」と回答した企業の理由は、「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」「為替変動」「管理費・燃料費の上昇」がともに上位3項目を占めている(図4参照)。政変以降に出された各種金融・貿易規制や急激に進行したチャット安、また、世界的な原油価格の高騰に伴う燃料費の上昇が、事業運営の悪化要因となっていることが見てとれる。

図4:2022年・2023年営業利益見通し「悪化の理由」
(上位3項目、複数回答)(単位:%)

2022年営業利益見通し「悪化」の理由
「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」と回答した企業の比率が48.5%、「為替変動」が45.5%、「管理費・燃料費の上昇」が33.3%。
2023年営業利益見通し「悪化」の理由
「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」と回答した企業の比率が42.9%、「為替変動」が35.7%、「管理費・燃料費の上昇」が28.6%。

出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

図5:2022年・2023年のDI値(単位:ポイント)

2022年のDI値(国・地域別)
ミャンマー(有効回答企業数87)における、2022年のDI値はマイナス11.5ポイント。
2023年のDI値(国・地域別)
ミャンマー(有効回答企業数87)における、2023年のDI値はマイナス10.5ポイント。

注1:DI値とは、Diffusion Indexの略で、「改善」すると回答した企業の割合から「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた数値。景況感がどのように変化していくかを数値で示す指標。
注2:カッコ内は有効回答企業数。
出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

今後の事業展開について、約6割が拡大または現状維持

今後1~2年の事業展開については、「拡大」と回答した企業の割合が11.7%、「現状維持」が51.1%、「縮小」が30.9%、「第三国(地域)へ移転・撤退」は6.4%であった。前年度調査に引き続き、約6割の企業がこのような状況下でも事業を拡大・現状維持と回答しており、縮小と移転・撤退は4割弱となった(前年調査では「拡大」が13.5%、「現状維持」が52.3%、「縮小」が27.5%、「第三国(地域)へ移転・撤退」は6.7%)(図6参照)。

図6:今後1~2年の事業展開の方向性(単位:%)
2021年(有効 回答企業数178社)は「拡大」と回答した企業の比率が 13.5%、「現状維持」が52.3%、「縮小」が27.5%、 「第三国へ移転、撤退」が6.7%。 2022年(有効回答企業数94社)は「拡大」と回答した企 業の比率が11.7%、「現状維持」が51.1%、「縮小」が 30.9%、「第三国へ移転、撤退」が6.4%。

注:カッコ内は有効回答企業数。
出所:2021年度、2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

「縮小」と回答した企業を業種別でみると、建設業や運輸業が、他の業種と比べて割合が高いという傾向がみられる一方、「移転・撤退」と回答した企業については、業種の特徴はみられなかった。

「縮小」「移転・撤退」と回答した企業の理由は、「規制の強化」が40.6%、「成長性、潜在力の低さ」が40.6%、と、様々な金融・貿易規制の強化に伴って、ビジネス活動が大きく制限され、成長性が見込めなくなったことが挙げられている(図7参照)。

図7:「縮小」「第三国(地域)へ移転・撤退」の理由
(上位5項目、複数回答、n=32)(単位:%)
「規制の強化」と回答した企業の比率が40.6%、「成長性、潜在力の低さ」が40.6%、「現地市場での購買力低下に伴う売上減少」が21.9%、「コストの増加(調達コスト、人件費など)」が15.6%、「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」が15.6%。

出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

為替変動や金融規制などがビジネス課題

ミャンマー進出企業が抱えるビジネス上の課題としては、「為替変動」が89.3%、「資金決済に関わる規制」が69.3%と、前年度調査に引き続き金融面での課題を挙げる企業の割合が高いほか、「電力不足・停電」など、ミャンマー特有の課題も挙がっている(表参照)。

表:経営上の問題点(上位5項目、複数回答)
ミャンマー
順位 経営上の問題点 回答率
1 為替変動 89.3%
2 資金決済に関わる規制 69.3%
3 通関等諸手続きが煩雑 62.7%
4 電力不足・停電 60.3%
5 発注量の減少 54.1%

注: 太字は、アジア・オセアニア全調査対象地域総数の上位10項目に入っていない項目。
出所:2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)

非常事態宣言が延長、総選挙も先送りへ

先にみてきたように、進出日系企業のビジネス活動は、金融・貿易規制、為替変動の影響などにより大きく制限され、厳しい事業運営を強いられている。しかし、今回の調査結果では、このような状況下でも、進出日系企業の約6割は縮小・撤退を選択せず、なんとか踏ん張りながらも様子見の姿勢を継続していることが明らかになった。一方、今後の方針転換の可能性について、注視する必要がある。

ミャンマー国軍による権力掌握から丸2年となった2023年2月1日、国軍は国営放送を通じ、非常事態宣言を6カ月延長すると発表した。非常事態宣言の解除から6カ月以内と定められている総選挙の実施について、国軍の発表が注目されていたが、今回の延長により、総選挙は先送りされる見通しとなった。

今後の事業運営に当たって、総選挙を1つの判断材料としていた進出日系企業は少なくない。事態の長期化に伴って、引き続き厳しい事業運営を強いられることが想定される中、今回の非常事態宣言の延長による総選挙の先送りを契機として、先行き不透明感がさらに増大し、事業の縮小・撤退という判断をせざるを得ない企業が出てくる可能性が高まるだろう。


注:
ミャンマーは現在、管理変動相場制を採用。市中の銀行や 両替商は、中央銀行が公表する参考レートから、上下0.3%以内の為替レートでの取引が義務付けられている。
執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所
細沼 慶介(ほそぬま けいすけ)
2001年、経済産業省入省。2019年からジェトロ・ヤンゴン事務所勤務(出向)。