ロシア中小企業インタビュー(2)メード・イン・ロシアのマイクで世界の音楽家を魅了

2018年12月6日

モスクワの約200km南に位置するトゥーラ州は古くからの工業都市。近年、州政府が投資環境の改善に力を入れ、ロシア政府が発表した2018年の連邦構成体別投資環境評価で5位となった。同州でプロの音楽家向けのハンドメイドマイクを製造するソユーズマイクロフォンのパベル・バジレフ社長に、同社の経営状況や海外展開への取り組みなどについて聞いた(2017年12月)。ロシア中小企業インタビュー連載の2回目。

手作業による音質のこだわりが世界で高評価

質問:
企業概要について。
答え:
プロの音楽家向けにハンドメイドのマイクを製造している。米国の音楽家との合弁で2013年に創業した。従業員は14人で全員トゥーラ州出身だ。製造ワーカー、エンジニア、営業、物流、経理を担当している。
生産はすべてトゥーラ市で行っており、世界17カ国で販売している。この先25カ国まで広げる予定だ。製品価格は1本600ドル~3500ドル程度で、年産500本程度、2016年の年間売上高は約50万ドルだった。売上比率は国内20%、海外80%で海外輸出の比率が大きい。輸出国の内訳は米国40~50%、ドイツ20~30%、日本10%程度、その他の国々となっている。日本にも信頼できる販売代理店がおり、日本向けのウェブサイトも最近立ち上げた。

自社製マイクを持つパベル・バジレフ社長(ジェトロ撮影)
質問:
製品の特長は何か。
答え:
緻密な溶接など生産工程での丁寧な製品作りに強みがある。トゥーラは軍事関連の工場があるため、金属加工にたけたワーカーやエンジニアを雇うことができた。ビンテージのマイクのような暖かみのある音質にこだわり、手作業で細かく調律している。プロの音楽家へのブラインドテストで高く評価され、英国の著名アーティストのコールドプレイにも採用されている。
部材はコンデンサーとレギュレーター以外はロシア製だ。金属加工はすべて自社で行っている。全工程が手作業のため、1本のマイクを作るのに60~70時間かかる。修理を依頼されるケースはほとんどないが、品質保証のためにエンジニアの情報を製品に同封している。また、国際標準化機構(ISO)の品質管理システムも取得している。

欧米式の経営とロシアの技術力を融合

質問:
営業戦略について聞きたい。
答え:
マーケティングに力を入れている。ロシア企業によくある特徴として、良い製品を作っても売り方や見せ方が悪い。われわれは米国パートナーの力を借り、欧米式の製品デザインやマーケティングを導入したことで、海外展開に成功している。社名の「ソユーズ」はロシア語で「連合」という意味だ。パートナーと互いの強みを生かして良い製品を作るという意味を込めている。
言葉や商習慣が異なるため、国ごとの現地販売代理店による営業も大事だ。また、SNSを活用して自らエンドユーザーに向けてプロモーションするほか、ディーラーへの製品研修も行うことで、品質管理を徹底している。2017年11月には代理店を介して幕張の国際放送機器展「Inter BEE」に出展した。
現在はプロ向け録音スタジオやテレビ局、コンサートホールがメインターゲットだが、今後はホームスタジオなどの一般ユーザー向けの展開も考えており、グレードダウンして価格を抑えた製品も企画している。
質問:
なぜトゥーラに立地しているのか。
答え:
トゥーラ市には技術系の大学が多く、エンジニアが豊富だ。賃金水準がモスクワよりも低い点も魅力となっている。
質問:
財務管理はどのようにしているか。
答え:
金融機関からの融資は受けておらず、自己資金で経営している。材料は前払いで購入しているが、ロシアでは材料が納品されないという問題はこれまで発生していない。
供給業者を探す際には、インターネット上の口コミを参照するようにしている。また、輸出時には最初の2回は全額前払いを要求している。その後、取引が継続すれば、10~30日の後払いも認めているが、その代わりに当社では輸出保険に加入している。米国で最初にディストリビューターになった企業に後払い条件で納品したら不良債権が発生した教訓があるためだ。
課題は生産体制の強化だ。現在1990年代の古い機械を使用しており、生産能力に限界がある。機械の増設や人材補強による生産力強化を検討している。トゥーラをはじめロシアには、正当に評価されていない優秀なエンジニアが多い。
質問:
国や地域行政から支援を受けているか。
答え:
トゥーラ州輸出支援センターからの支援でISO認証取得や知財取得費用の補助を受けた。起業当時に比べ、ここ数年で中小企業向けの支援策が増えたと感じている。国も州も、資源依存型の経済からの脱却を図ろうとしていることが要因だと思う。
質問:
日本企業との協業可能性は。
答え:
既に日本に販売代理店を持っているが、さらに販売の強化を図り、取り扱いを希望するディーラーがいればぜひ話をしたい。また、日本でもSNSを活用してエンドユーザーにアプローチしたいと考えている。トゥーラでビジネスを検討する日本企業がいれば、経営上の相談を受けることは歓迎だ。
インタビュー先企業情報
企業名 ソユーズマイクロフォン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 ロシア・トゥーラ州
主な事業、取扱製品・サービス プロ向け高精度マイク製造
日本企業への提案や関心事項 自社製品の輸出
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。