ロシア中小企業インタビュー(6)デザイン性の高い製品で生活に新しい風を

2018年12月20日

モスクワ州ナロ・フォミンスク市にある家具部品メーカーのメタルラボは、デザインから自社で手掛けることで、はやりに合わせた商品をリーズナブルな価格で展開している。同社のコマーシャルディレクター、アントン・マルチノフ氏に企業概要や経営状況について聞いた(2017年12月)。ロシア中小企業インタビュー連載の6回目。

トレンドに合わせた商品展開で成功

質問:
企業概要について。
答え:
2004年に創業し、金属を基調とした家具部品や照明器具部品、キッチン用のレンジフードなどを製造している。社員は30人程度。親会社が家具部品輸入卸売会社マクマートで、グループ全体では約1,000人の社員がいる。
コマーシャルディレクターのアントン・マルチノフ氏(ジェトロ撮影)
メタルラボ製品を用いたラック、テーブルセット、照明器具(出所:同社ウェブサイト)
質問:
商品の特長は何か。
答え:
欧州の同種製品より3割以上安い。高級品と比較すると、8割近く安い価格設定にしている。しかし、デザインにこだわり、安く見えないようにしている。安価な製品だけでなく、顧客の要望に応じて幅広い価格帯の商品を展開している。顧客ニーズに合わせて技術者が設計し、調達担当が経費を試算する。
質問:
なぜ、ナロ・フォミンスク市に立地しているのか。
答え:
モスクワやドモジェドボ空港に近いことと、人件費が安いことで選んだ。
質問:
営業実績について。
答え:
2017年の売上高は1億3,200万ルーブル(約2億2,440万円、1ルーブル=約1.7円)になる見込み。2016年は1億ルーブルで、創業以来、売り上げは順調に伸びている。
経済危機下にもかかわらず、売り上げが伸びている要因は、ミニマリズム、ロフトスタイル、グルマンディズムといった流行に合わせた商品を展開していることと、工場の生産キャパシティーが大きいため相手が求める量を出せるからだと思う。
ロシア最大のキッチン家具メーカーのマリアとも取引している。売り上げ構成はB2Bが9割、B2Cが1割だ。製品の多くは取引先専用に設計しているため、一般向けには出せない。販売先は、ロシア国内が8割、輸出が2割(カザフスタン、スイス)だ。イラン企業とは交渉中で、アラブ首長国連邦(UAE)企業からはモスクワの展示会「家具2017」で引き合いを受けている。
地方自治体による公共調達への参加については、なるべく最小にしている。支払い条件が悪く、支払い義務を果たさないこともあるからだ。もちろん、連邦構成体次第であり、モスクワ市やモスクワ州は支払いが良いため、積極的に参加しようと考えている。
質問:
営業戦略について。
答え:
われわれのミッションは、ロシアの消費者に最高のものを新しいスタイルで提供することだ。ロシアの人の生活スタイルを多様化させたいと思っている。目下の目標は、現在交渉中のフランスDIYショップ大手ルロイ・メルランとの取引開始と、欧州への展開だ。将来的には、米国やアジアにも出たい。模倣品のリスクがあるため中国は考えておらず、日本や中央アジア、香港、シンガポールを想定している。世界展開を視野に、リブランディングを試みており、ブランド名称をロシア語から英語に変更した。営業方法は、見本市やネット広告を活用している。
質問:
材料の調達はどのようにしているか。
答え:
調達の8割はロシアからで、ロシアで製造していない大きい鋼管やアルミニウムはイタリアから調達している。ロシアのアルミは質が良くない。
質問:
商品の発送はどうしているか。
答え:
20台の自社トラックで、ロシア全土に輸送している。ロットや仕向け地によっては地場の運送会社を使い、トラックで陸送している。
質問:
財務管理や決済リスク管理はどうしているか。
答え:
自己資金のみで運営している。銀行融資について反対してはいないが、自己資金で回せているうちは、むやみに借り入れることは避けるべきだと考えている。決済リスクについては、初めての顧客には、必ず前払いを求めている。継続的に取引している信頼できる顧客には後払いも認めている。原料の仕入れにおいては半分の割合で前払い。親会社のマクマートは国内でネームバリューがあるので信用につながる。

大学との連携で優秀な人材を確保、技術力で勝負

質問:
雇用や人材育成はどうしているか。
答え:
技術者が多いカルーガ州オブニンスク市から、多くの社員を雇っている。カルーガ市からも雇っているが、遠いので多くはない。採用条件は、各業務で必要なソフトウエアが使えること。設計では、製図ソフトが使えることが必須だ。モスクワ州の高等経済学院から、就職先として人気がある。中には、デザインを学んでいる学生もいる。同学院内で当社主催のデザインコンテストをしたこともあり、2017年に同学院から1人をデザイナーとして採用した。
質問:
知財管理はどのようにしているか。
答え:
商標のみ登録している。意匠登録はしていないが、われわれと同種の製品を作るためには同等の機材や人材が必要で、ロシア国内で同じ条件をそろえる会社は現状いないので、今のところあまり心配していない。試しに他社に同じ製品を作らせてみたことがあるが、われわれより50~60%安価で製造できるものの、品質は比較にならないほど低く、売れる代物ではなかった。
質問:
国や地域行政からの支援を受けているか。
答え:
政府の情報発信が弱いのか、あまり情報が入ってこない。ロシアの起業家支援団体オポラの会員になり、支援策やビジネス環境に関わる情報収集をしている。友人の起業家同士で交流し、経営に関する情報交換や資金面などで協力している。
質問:
日本企業との協業可能性はあるか。
答え:
自社製品を将来的に、日本に展開したい。日本の金属加工機械の導入も検討したいと考えている。
インタビュー先企業情報
企業名 メタルラボ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 モスクワ州
主な事業、取扱製品・サービス 金属製・木製家具部品の製造
日本企業への提案や関心事項 家具部品の輸出、日本製金属加工機械の調達
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。