ロシア中小企業インタビュー(4)地元の人材を活用し、アプリ開発を世界展開

2018年12月14日

トゥーラ州でITアウトソーシングサービスを展開するスマートテックは、地元の人材を活用し、最新のITシステムを用いたアプリの開発を強みとしている。同社のテクニカルディレクター、アルフレッド・ストリャロフ氏に企業概要や経営状況について聞いた(2017年12月)。ロシア中小企業インタビュー連載の4回目。

最新システムを活用し幅広いサービスを提供

質問:
企業概要について。
答え:
2001年に創業し、米国企業が開発したソフトウエアのテストサービスから事業を開始した。その後すぐにウェブ開発に取り掛かり、最近はアンドロイド用のアプリの開発が主軸になっている。創業当初5人だった社員は現在100人にまで増えた。プログラマーが60人いるほか、マーケティング部、アプリテスト部、総務部などに分かれる。顧客はロシア国内のほか、欧米、オーストラリアからの受注実績がある。

テクニカルディレクター、アルフレッド・ストリャロフ氏(ジェトロ撮影)
質問:
サービスの特長は。
答え:
既存のソフトウエアへの機能付加に強みがある。例えば、eコマースや情報管理機能などがある。米国の最新ITシステムを取り入れており、対応できる幅が広い。ソフトウエアのテストサービスから始めたことから、品質やメンテナンスにも自信がある。海外からの受注が多いため、英語ができるスタッフを多く登用している。
質問:
周辺国でも最近、IT産業に力を入れているが、他国に比べた優位性はあるか。
答え:
コスト面では、ベラルーシやウクライナの方が強い。しかし、経済の不安定を理由に、ウクライナから技術者がロシアに流れてくることがある。ウクライナで安くできる案件であれば、下請けとして使うことも可能だ。

優秀なスタッフ確保しやすいトゥーラ市

質問:
どのような方法で営業を行っているか。
答え:
ウェブ広告やレーティングへの参加、電話での営業も行っている。効果的なのは口コミだ。システムインテグレーターは下請け企業情報をよくチェックしており、同業他社同士で情報交換をしているため、そこから受注することが多い。
質問:
トゥーラ市に立地するメリットは。
答え:
トゥーラ市はモスクワに比べて賃金が低いので、コストを抑えることができる。また、州都なので大学が多く、優秀なスタッフを確保しやすい。スタッフのほとんどがトゥーラ市近郊に住んでいる。IT市場が大きいモスクワでは人材流動性が高いが、トゥーラはそれほど高くない。モスクワに出ていく人がいる一方で、戻ってくる人も多い。当社では毎月2人ほど出ていくが、2人ほどが入ってくる。

人材育成に研修や費用補助、ベアも

質問:
雇用や人材育成はどのように行っているか。
答え:
採用は自社ウェブサイトやエージェントを利用して行っている。テレワークは行わず、全員がオフィスで勤務している。スタッフを個人事業主として契約し流動的に活用することは、会社の評判が悪くなるためしていない。
使用するIT技術によって開発期間が異なり、アンドロイドアプリだと完成に1カ月は掛かる。発注者の意向に納期を合わせるが、厳しい場合は学生アルバイトを利用する場合もある。
人材育成では社内の各種研修や新人用のITプログラムを用意している。自習による新しい技術のサーティフィケートの取得を推奨しており、取得のための費用補助や取得した者への給与のベースアップも行っている。
質問:
海外との取引が多いとのことだが、財務管理はどうしているか。
答え:
まれに銀行からの借り入れもあるが、基本的には自己資金で運営している。決済リスク管理として、受注は前払い、納品が複数月にまたがる場合は毎月の分割払いを基本としている。付き合いが長く信用できる顧客には後払いも認めている。100人で常時20件以上の案件を回しており、さまざまな国と取引することで、経済上のリスクヘッジをしている。
質問:
国や地域行政からの支援は。
答え:
連邦レベルの支援のことは知らない。トゥーラ州からは、パートナー探しで支援を受けたことがある。しかし、IT産業はトゥーラ州の重点産業ではないため、具体的な支援施策はまだ少ない。自己資本で経営できているため、財務面のサポートは現在は必要ない。
質問:
日本企業との協業の可能性は。
答え:
アプリやサイトの開発で協力したいが、価格勝負になるだろう。日本の同業他社よりも価格優位性があれば、ぜひ話がしたい。ロシアビジネスを考える企業にeコマースサイトの構築や既存サイトのロシア語化の提案が可能だ。
インタビュー先企業情報
企業名 スマートテック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
所在地 ロシア・トゥーラ州
主な事業、取扱製品・サービス ITアウトソーシング受託
日本企業への提案や関心事項 ITアプリ・ウェブサイト開発、アウトソーシング受託
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。